共通の土壌を作る

昔からあったと思うのだが、社内における読書会の重要性が昨今、見直されているように感じる。「社内に覇気が感じられない」「社員同士の間で連帯感が薄い」「社員の定着率が芳しくない」といったように経営者の悩みは尽きない。それぞれの問題にはそれぞれの原因があって、それに対処する必要があるだろうが、そもそも仲間同士の間で共通となるような意識が醸成できていなかったり、問題に取り組むのに必要な能力がバラバラだったりする。問題の根にコミュニケーションの欠如があることが分かっていても、「それにどう取り組んで良いのか分からない」という経営者は多い。

社内の読書会はこういった悩みに対する一つの解決策としてお勧めできるように思う。読書会の運営の仕方はいろいろだが、同じ本を参加者各自が読み、どのように感じたのか、そこから何を学ばなければならないのかを話し合うことは、とても有意義だ。例えば、その本が仕事に必要な専門書であれば、共通の意識、同じ言葉で社員同士が語れるようになる。職場によって本を読む習慣のない社員が多い場合、いきなり専門書から始めなくても、読みやすい、今話題になっている本から始めてもよい。同じ本を読むことで、社員の間に共通の話題が生まれ、コミュニケーションのきっかけになる。

個々人の結束力を高める

アメリカのある中堅マーケティング会社が、「勤務時間外に本を読んで、あとで集まってその本について話し合うことに、どの程度関心があるのか」についてアンケート調査を行ったところ、かなりの数の企業から前向きな反応があった結果が得られたそうだ。その期待するところは、「社員たちが情報を共有し、個々人の結束力といったものを高めることによって、堅実でゆるぎないチームスピリットを育むためのすばらしい方法になりうる」というものだったという。しかし、読書会を立ち上げる際の難題の一つが、誰もが読みやすい本をどうやって見つけるのかと考えだすことだとされる。

職場によって異なるだろうが、その一つの方法は実用的なビジネス関連書から始めることだろう。仕事に必要な知識を得るためであれば馴染みもあるだろうし、その本を読むことのメリットも社員たちに分かりやすい。例えば、マーケティング会社の社員なら、今ならデジタルコミュニケーション、ゲリラマーケティング、危機管理、レピュテーションマネジメントに関する本などが挙げられるだろうか。今の急速に進化している動向に、社員自身も努力してついていくことが求められている。適切に管理すれば、社員のためにも企業のためにもなりえることが想像できる。

運用は1人に任せない

職場の読書会がもたらす効果を考えれば、企業が負担するコストはわずかなもので済むこともメリットだ。本の購入を企業の負担で賄うとしてもたかがしれている。それに読書会の時間をどのように取るかだが、そもそも1か月に何度も開催しても参加する社員の負担が増えるばかりだろう。せいぜい1か月に1回か、中には2カ月に1回の開催の企業もある。長く続けることを考えれば、決して無理をしないことだ。それに、その読書会を開く時間帯も、わざわざ終業後に取る必要までないかもしれない。実際に導入している企業に話を伺うと、始業前の30分を使っていたり、昼休みの時間を割いている例もある。

運用については、参加者の熱意次第ということもあるかもしれない。しかし、あまりに一人の熱心な人ばかりがリードする形になってしまうと、そのほかの人たちがその一人に頼ってしまい、意見も出にくくなるので要注意だ。こうなるとせっかくの読書会の意義も無くなってしまいかねない。「人は2つの方法によってしか学ばない。1つは読書によって、もう1つは自分より賢い人たちとの付き合いによってである」という言葉もある。これからの時代、批判的思考能力を養うことも重要だ。あくまで参加者の意識に合わせて、運営することが大切だろう。

求められる切磋琢磨する時間

大抵の人たちの間で、デジタルメディアに費やす時間が10年前よりかなり増えているといわれる。今の時代、特に若い人たちはスマホとともに育っているのが現実だ。勢い、若い人たちの本や映画といった従来からのメディアとの付き合い方は、これまでと根本的に異なっている。それは仕方ないこととしても、これから先もじっくり何かを読んだり見たりして、深く考える機会がないままにいるのは、人間個人としても恐ろしいことのように思えるし、企業にとっても貴重な戦力が育たないのはとてももったいない。切磋琢磨する時間が貴重になっているわけだ。

「うちの社員はみんな優秀で素直ですよ」「仕事はみんな間違いなくこなしてくれている」「会社の雰囲気もアットホームな感じで悪くない」と、何の問題もないように話す経営者もいるが、だからといって満足していると怖い。今している仕事の仕方が5年後、10年後に通じるのか、「間違いなくこなす」というのは反面、冒険心がなく新しいことに取り組む気概がないことではないのか。雰囲気がアットホームなのは厳しさの足りない証拠なのではないのかなど、今の満足でなく先の心配、用心をしなければならない。社員はそのための大切な戦力なのだ。