細部の合意は契約書で

普段仕事をしていると、口頭での確認や受発注書の交換だけで契約を済ませることが多い。しかし、契約書の作成なしには多岐に渡る条項の細部まで合意することは本来容易ではない。後日、契約内容において当事者の意見が食い違った時、どちらの意見が正しいのかを明らかにするためにも、今、私は契約書を作成する取引を線引きしてあらかじめ決めておこうとしている。

それに先立ち、私の周囲ではこの契約書について「どのように取り扱っているのか」予め確認しておこうと聞いてみた。そうすると、(業種によっても事情は様々なのだろうが)私と同様に契約書まで作っていないか、契約書をわざわざ作成しているところでも、「他の契約書を参考にして作った」というものが存外多かった。「参考にして作った」とは言っているが、実質は本人のその時の言い方から判断して「内容をパクった」のに近いのではないかと私は勝手に思っている。

とまあ、そんな状況だったので、これは弁護士の先生に聞いた方が早いと感じて、契約書に関して良くある質問と回答を、以下に基本的なところから聞いたものをまとめてみた。

タイトルは何でもいい

 Q:「収入印紙は貼る必要があるのか」
 A:「印紙税の関係で契約書に収入印紙を貼る必要はある。しかし、契約書の効力という点からは収入印紙のない契約書も完全な効力を有する」

 Q:「契約書は何通必要か」
 A:「契約書の通数は当事者分作成するのが基本。印紙代の節約から2社間の契約書でも正本を1通作り、他方は写しを持つという形式があるが、写ししかない場合、改ざんを疑われた場合に立証しなければならないというリスクが生じるため、推奨できない」

 Q:「タイトルに『合意書』となっていたら『契約書』とは言えないのではないか」
 A:「『契約書』『取り決め事項』『覚書』『協定書』など、いずれがタイトルになっていても効力に差はない。もし相手方が『契約書』というタイトルに抵抗を示しているようであれば、『合意書』『覚書』としても構わない。
タイトルを何にすべきか分からない場合は、『○○システムに関する契約書』などで良い。意味合いの乏しいタイトルの決定に悩む必要はない」

 Q:「前文には何を記載すれば良いか」
 A:「基本的には、当事者、対象(○○システムなど)、契約の趣旨(継続した共同開発など)が明確に記載されていれば足りる」
「後で自社にとって有利な条項を記載する際の理由を先行的に書いておくというテクニックもある。例えば、『○○した場合の違約金として500万円を支払わなければならない』とした時、『何故違約金として500万円も支払わなければならないのか』という疑問が生じる。この場合、『業務提携の過程で特許申請未了の資料も含めてすべて開示されることから、その情報の管理について極めて高度な注意義務を負う』としたうえで、『指定した場所から情報を持ち出してはならず、無断で持ち帰った場合に違約金として500万円を支払わなければならない』とする。
つまり自社に有利な措置を規定する場合、『○○だから』という正当化する理由を記載する」

契約の変更形式は限定すべき

 Q:「契約に先立ってなされた合意事項は契約書作成後も有効か」
 A:「契約に先立ってなされた口頭又は文書による取り決めに対して、『当該契約が優先し、これが契約時点での最終合意内容になる』ことの確認条項を入れることが増えている。
契約前の取り決めは『後法は前法を破る』の原則により規定しなくても優先するようにも思えるが、基本契約よりも限定された分野についての取り決めが成されていた場合、『個別法は一般法を破る』の原則が適用される危険がある、前記のように最終合意であることの確認事項が必要だ」

 Q:「契約の変更は現場の同意で可能か」
 A:「基本契約書の締結後に何らかの変更を加える場合、その変更形式は限定すべきだ。具体的には、『本契約は甲乙代表者の署名捺印のある文書によってしか変更できない』などの条項が考えられる」

 Q:「不可抗力を免責する条項の注意点は」
 A:「不可抗力免責の条項に、不可抗力といえない人為的なものが含まれていないか注意する必要がある。避けられる災害を避けないことは、人為的と言われても仕方ない面がある」

 Q:「担当者の指定など細かな条項を置く意味は何か」
 A:「具体的に『本件取引については、甲の担当者は○○とし、乙の担当者は××とする』と規定することが考えられる。長期間の契約をする場合、相手方の住所が分からなくなる可能性もあるので、書面などを指定の住所に送れば到達したと見なす条項も入れると良い」

支配方法も細かく明記

 Q:「支払い方法はどのように定めれば良いか」
 A:「何日締めの何日払いかを明記するのは当然。支払日が土日になった場合の処置も記載すべきだ。現金払いか手形も構わないのかも明記する。手形を許容するなら支払いサイトの限定も忘れてはならない。また、『半額は必ず現金で』などの規定も有効。銀行振込を用いる場合には、振込手数料をいずれが負担するかも明記する。銀行振込を指定することで、事実上手形取引を防止することもできる」

Q:「相殺条項を入れる意味は」
A:「相殺は最も簡易かつ安価で確実な担保方法です。抵当権と比べて登記費用が要らない点で安価であり、地下の下落や競売落札価格を考えなくてよい点で確実であり、何より意思表示だけで足りる点で簡易だ。本契約に関する債権を有する場合、いつでも売買代金債務と相殺できるという条項を入れておくべきだ」

Q:「遅延損害金は何%と決めておけばよいか」
A:「14.6%の遅延損害金を定めておくのがお勧め。回収の際に損害金分が増えるという本来の使い方以外に、支払いを渋る相手との交渉において、遅延損害金を放棄する代わりに元金だけでも支払うよう求めるという交渉材料としての利用法がある」