OJTで十分か

今どきの企業は、新入社員や中途入社の社員などに対して、彼らに対する「教育」には力を入れて行うが、「訓練」が今一つ足りていないのではないだろうか。そう言うと、「『教育』と『訓練』はどう違うのか」という話になる。中にはそれらをひとくくりにして「教育訓練」と言っているところもあるが、何が「教育」で何が「訓練」なのか、はっきりした定義もないままに使われていることが多い。私はそれを勝手に、「教育」は机の上での知識の習得、「訓練」は実務の体得という風に捉えているが、大切なのはそれらを意識して教えることだろう。

ある説明によると、水泳を例にとって、「教育」は泳ぎ方の講義などを受けたり本を読んだりすること、「訓練」は水の中で体を動かし、泳ぎのコツを体得することとあったが、その「教育」については企業によっていろいろ考えられていても、「訓練」がおろそかになっていないかという危惧を持っている。このように指摘すると、「OJTで十分に行っているから大丈夫ですよ」という回答をいただくことも多いが、OJTで必要な訓練がすべてカバーできるかと言えば、そんなはずはない。OJTで個々に生じる問題には対応できても、基本的な姿勢などを養うことはできない。

一日中「挨拶」の訓練

例えば、小売業の社員たちが来店客などにする挨拶などはその典型例だろう。イトーヨーカ堂の中国事業を立ち上げた故塙昭彦氏は中国で会社を立ち上げた際に、中途入社した現地の社員たちの「礼・躾」「挨拶」の訓練を、入社した翌日から徹底して行ったそうだ。炎天下で一日中「挨拶」だけの訓練を行ったこともあったそうで、さすがに夕方になると多くの人たちが辞めていったという。しかし、そこまでして始めて計画経済の中でモノを作り、全商品を配給していた国に自然と頭を下げることのできる習慣とその意味を植え付けることができたのだろう。

これは中国だから特別に必要だったものだろうか。そんなことがあろうはずはない。今、職場の中は「ダイバーシティー」の推進で、男女、年齢、国籍、正社員・非正社員等関係なく、さまざまな人たちが、さまざまな意図を持って、それぞれの立場で業務を行っている。言葉一つかけても、それに対する受け取り方は千差万別だ。だからこそ、企業に共通した基本的な姿勢を持ってもらうため、それが完全に習慣として行動できるように訓練することも必要になる。ここを妥協すると、統制がとれず、職場が乱れる元になることは言うまでもない。

「八徳」は人としての基本

先の故塙昭彦氏は、儒教思想の中で、人間として、リーダーとして最も大切なことを表している言葉として滝沢馬琴の南総里見八犬伝に出てくる「仁義礼智忠信孝悌」を紹介している。

 仁・・・基本的な人の道。すべての徳の中で一番大切と言われている。
 義・・・人間の行うべき道筋。道理。自分のためだけでなく、人のために尽くす。
 礼・・・社会の秩序を保つための生活規範。
 智・・・物事を分別する心を持っていること。
    知は一般的には知っていることをいうが(知識、認知)、智は知を越えた高い次元を占める。
 忠・・・偽りのない心。
 信・・・欺かない、嘘を言わない。
 孝・・・父母に仕えること。両親を大事にすること。
 悌・・・年長者に対して従順なこと。

これらを「八徳」と呼ぶ。社員一人一人がこれら「八徳」に向けて成長していくことが企業の成長につながることは、洋の東西を問わない。

神髄を体に教える

日本では今、OJTが中心で適宜Off-JTを活用するのが教育・訓練の一般的なあり方とされる。このOJTは第一次世界大戦時のアメリカにおいて、現場における実地訓練を施す方が、職業訓練の施設で行われる集団教育よりも新人教育に対する時間コストが大幅に減り、現場に対して必要な人員を速やかに補充することができるようになったとされている。しかし、そのOJTもその意義はまだまだ失ってはいないものの、それだけでは現在の状況に合わなくなってきているのではないだろうか。

せっかく苦労して採用に至った新入社員も就職してから3年以内に中卒は7割、高卒は5割、大卒は3割が離職することから、「七五三現象」という言葉まである。その理由に多いのが、給料や労働時間に関する労働条件のほかにも、「イメージと違った」「職場の人間関係」「社風や仕事が合わない」などが挙げられるという。そんな新入社員にいくら教育やOJTをしても無駄だろう。むしろ、仕事の神髄を体に教えるような、もっとその企業の仕事に向き合う根本的な姿勢から教えることが求められているように感じる。

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