今のままでは過当競争の中で埋没

これまで私が経験したり、知り得たことを中心にWebのことからSNSのことをお話ししてきたが、話していながらそれらを利用する本当のメリットが伝わっていないようにも感じていた。それは単に仕事の効率が上がるとか、PRが安くできるとかといったことに留まらない。仕事そのものを変え、付加価値を上げることに貢献できるということを分かって欲しかったのだ。しかし、ここでいくら私が理屈を言ってもなかなか分かりずらいと思うので、ちょうど良い例が見つかったのでそれを紹介したいと思う。

それはある大手電機メーカーの孫会社の話だ。業務の内容は主に親会社が関わる電機製品のシステム開発・設計を行ってきた。システム開発・設計会社は世の中にたくさん存在するが、その会社も御多分に漏れず、仕事の内容は「下請け」作業が中心で、言われたことをそのままやっていれば良く、そこに創意工夫の余地はなかった。しかし、それでは他のシステム開発・設計会社といかに安く仕上げるかの価格競争や、いかに短納期で応えるかといった、「技術の周辺部分」での過当競争に陥らざるを得なかったという。

強みを見直し、情報発信を徹底

そこでまず見直したのが、自分たちは「何をする会社か」ということだった。それを考えた時、社員からはいろいろな回答が出たようだが、そのどれをとってもうまく言い当てられていないようにお互いが感じていた。つまり、広い技術の裾野を持っていたものの、「何を得意にする会社なのか」ということが、今ひとつ社内でも不鮮明だったと経営者は当時を振り返る。

そこで改めて、その会社では自社の強みを自分たちの言葉で言い表したものを作った。新しい「キャッチフレーズ」のようなものだ。しかし、作っただけでは、外の顧客や関係者には分かろうはずもない。そこで、その周知を目指してWebの活用を思いついた。できるだけ多くの人たちに自社のWebを訪れてもらい、新しく自分たちが定義し直した事業内容を外に向けて発信したいと考えた。

ここまでは、世の中においてもよくある話かもしれない。この会社の素晴らしいところは、その情報発信を徹底したことだ。Webぺージにこれまでの同社が取り組んできた事例を上げたり、社長はもちろん、社員の一人ひとりまでも、順番で週に1回はブログを書くようにした。メルマガの発信も希望者に行っている。何しろ、先頭に立ってその動きを先導しているのが経営者本人だから、それは否が応にも全社的な取り組みに発展していった。

技術文書にもマンガのキャラクターが登場

もちろんそれは、パソコンやスマホで検索した時に上位にくることを狙った。どういう単語と単語を組み合わせれば効果的かを考え、社員がブログを更新する際には、担当役員が内容とともに最終的な文章のチェックを行う。ただ単にキーとなる単語があればいいというのではなく、それがきちんと外部の技術者にも読まれるために、マンガのキャラクターを登場させるなどの工夫も施されている。「マンガのキャラクターなど子どもだましだ」と一笑に付す方もおられるかもしれないことも承知のうえで、無味乾燥になりがちな技術文章に彩を添えて、少しでも読みやすくしようという配慮だ。

そうした努力の結果、この会社のWebぺージの月間訪問者数は、3年前と比べて10倍に増えたそうだ。そして、実際にグーグルの検索結果によると、システム開発・設計を巡る様々なキーとなる単語、あるいはその組み合わせで検索順位が第1位になっているものが数多く生まれている。こうなってくると、顧客(予備軍も含める)が何か困りごとがあって検索した時に、この会社のWebぺージが第1位に上がり、その中を読まれやすくなった。つまり、特別な営業をしなくても、顧客(予備軍)が向こうから自然と来てくれ、困りごとの情報も集まるようになったのだった。

「下請け」から「コンサルタント」へ

その結果、今ではこの会社は「下請け」仕事の割合が大幅に減り、コンサルタント的な「顧客の悩み解決業」に業務の主力をシフトしている。過当競争に悩まされることなく、社員も顧客の喜びがそれまでの「下請け」仕事の時とは比べ物にならないくらいに大きいことが伝わり、モチベーションアップにつながるなど良いことづくめの結果に大満足の様子だ。もちろん、同社の営業利益率も大幅にアップしている。

この会社が特別なわけではない。今、世間ではよく言われるように、顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短縮化、グローバル化による競争環境の激化により、従来からの自前で何でも解決・処理しようとする動きは限界を迎えている。それに加え、近年の人手不足が後押しし、技術をはじめとする企業の外にある資源を積極的に取り入れようとする動きが活発化しているのは間違いない。

その動きを取り込むために積極的な情報発信が欠かせない。そのためにWebやSNSといった手段が手軽に利用できる現実が出現しているのだから、それを利用しない手はない。そうして、自社の強みを活かすことができれば、「下請け」に甘んじることなどもなくなるはずだ。