覚えることはメモに任せる

秘書を雇いたいほどに忙しいという思いをしたことのあるのは私だけではないだろう。普段はそれほどではなくても、たまたま仕事が重なってしまうと猫の手も借りたいほどに忙しくなる。そうならないように仕事の調整をしているつもりでも、「うっかり」してしまうのだ。前に約束していたことを忘れていたりする。そんな時、私は自分の頭の悪さを思い知らされるのだが、私以上に忙しい人はどうしているのだろうと考えていると、やはりそれなりに工夫をしているようだ。

GMOインターネットの会長兼社長を務める熊谷正寿氏は、その著書の中で周囲から「メモ魔」と呼ばれるほど始終メモをしているそうだ。「仕事でもプライベートでも、人と話したこと、人から教えられたことを記憶しておけるほど、私は頭のいい男ではない」と謙遜するが、熊谷氏ほどになると私の何倍も忙しいはずだから、たとえ頭が良くてもそれらを覚えておくことはできないだろう。また、たとえ覚えられても、そんなことに頭を使うことより他の創造的なことに使う方が会社や業界のためでもあるだろう。問題が自分の予定だけのことで済めばまだ良いが、他人との間で「言った、言わない」の問題など、そんな非生産的なことに時間をとられるほどバカ気たことはない。

思ったほど覚えていない人の話

人の肉声というのは話しているときは覚えているつもりでも、そのうち日常の雑事に紛れて頭からすっかりと消えてしまうことになる。最近は(年齢のせいとも言われるが)、今さっき言われたことでも忘れてしまっていることがある。これは酷いが、それほど酷くなくても程度の問題に過ぎない。それに、メモをとることは自分のためならず、相手に安心感を与えることにもつながる。「私はあなたの話をきちんと聞いていますよ」「あなたの言われたことをしっかり受け止め、これからの行動に反映させます」といったジェスチャーにもなるのだ。それを考えると、そもそも人の話を聞くときはメモを取るのが基本ともいえる。

そもそも、メモを取ることが習慣になっている人から見れば、メモを取らないことが「人の話を聞く気持ちがないのでは」と疑われることにもつながりかねない。仕事に対してだけでなく、(ちょっと大げさなようだが)人生に対しても「不真面目だ」との烙印を押されると大変な損失だ。しかし、もっと悪いのは、メモを取ってはいるがその後のフォローをしないために、メモに書いたことを忘れるということだ。話をした相手には真面目に聞いている風を装っても、実際にはまったく覚えていないという風に理解されれば、もうその時点で話し手との信頼関係はなくなったも同然だ。

メモは取った後が肝

だからメモはただ単に取ればいいのではない。メモを取った後も大切なのだ。その要領を私なりにまとめてみると以下の通りになる。
まず、メモを書くための専用のノートを一冊用意すること。あちこちにメモを書いたりしていると、どこに書いたのかを忘れてしまい、まったくメモの効力を活かすことができない。その代わり、その決めたノートは必ず常に携帯する。だから、メモを取るノートは見た目より、持ち運びし易く、立ったままでも書きやすいものを選ぶと良いだろう。

大切なのはそのメモが何時、どこで、誰と話した時に書いたものか後で分かるようにしておくことだ。会議や打ち合わせに入る時など、ほぼメモを取ることが確実と思うような場合には、予め日付や会議名など大切と思うものは書きこんでおくと良い。そして、キーワードなどがあれば大文字にして書くとか、マルで囲って目立つようにするとか、その部分だけ色を変えるとかしておくと良い。

メモを書いた後は、できればその内容や相手によってすぐに取り出せるように整理できれば良いが、時間がない場合は、項目ごとにポストイットなどを使ってすぐに引き出せるようにしておくだけで良い。そうすれば、例えば上司に呼ばれた時など、あたふたしないでも「前回は○○についてのお話しでしたが…」とすぐに要件を切り出すことができる。

メモ魔として知られる有名人いろいろ

メモを最大限有効に活用するには、以上のことに加え、内容に関して自分の意見や疑問をまとめ、それに様々な考察を加えると後で思考をまとめたり、何かのアイデア出しに使うことも可能だ。

ただ気を付けなければならないのは、話しの相手のメモと自分の意見や疑問をごちゃ混ぜにしないことだ。どこからどこまでが事実(相手の話)で、どこからが自分の意見や疑問なのかをしっかり区別しておかなければならない。そのためには、予め、例えば見開きの片方のページをメモに使って、もう一方のメージは自分の意見や疑問に使うといった工夫もあっていいかもしれない。新しいアイデアがひらめいた時も、自分の意見や疑問と合わせて書いておくと良いだろう。

このように使えば、メモが単なる議事録のようなものに終わらず、アイデアの宝庫になる。余計な話しだが、メモ魔として知られた有名人にはレオナルド・ダ・ヴィンチやトーマス・エジソン、ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンなどがいる。アーネスト・ヘミングウェイもそうだ。メモを取ることを習慣づけて、未来をより豊かなものにできますように。メモにはそんな可能性まで感じさせる魅力がある。