人間を理解する

このところ中高年からの起業相談が増えている。実際に日本政策金融公庫が2018年7月に行った「新規開業実態調査」によれば、起業した人の開業時の平均年齢は43.3歳だった。年代別に見ると「40代」が多く35%を占め、次に「30代」の32%が続く。ちなみに「20代」は7%でしかない。傾向としては「40代」の起業が増えているとのこと。99%以上の人が起業前に会社勤めをした経験を持ち、まったく初めての分野で起業する人や、人を使った経験のない人は多くはない。開業資金は「500万円未満」が一番多いが、平均では「1062万円」となっていて、大きな資金を用意した人が平均を押し上げている様子だ。

ここからは推測だが、自分で働いていた時の経験から、「自分でやればもっとうまく行くはず」と考えて独立するケースが多いのだろう。言わば物事を合理的に考える傾向の強い人なのではないか。しかし、ビジネスを始めるに当たっては、非合理的に考えることも排除するのでなく、むしろ非合理的な考えを理解する必要がある。なぜなら、「ビジネスをする」ことは「人間を理解する」ということがなければ成り立たず、人間の行動は非合理的そのものだからだ。

発想はビジネス的か

私の住んでいる家の近くに、コストコというスーパーがある。ご存知でない方のために説明すると、コストコはアメリカから日本に入ってきた会員制の「倉庫型」と呼ばれる小売(卸売り)チェーン店だ。店内には食品、雑貨が山のように積まれ、車のタイヤやメガネなどサービスの必要なものまで売られている。フードコートもあって私が行くときはいつも家族連れで賑わっている。国内にはすでに26店舗あるそうだ。

「一流品を卸値で売る」ことを売りにしているように、確かに安い。実際、商品に乗せるマージンは一般の小売なら25%とされるところ14%程度。そのマージンはほとんど店舗の運営費に費やされているそうで、結局顧客の年会費が利益として計上されている格好だ。

しかしいくら安くても、とにかく売られているのが箱売りか大容量パックばかりなので、レジでは2、3万円の支払いをしている人も多い。合理的な買い物をする人なら、家族に必要十分な食材だけを買って、例えばそれを2、3日中に消費することになるのだろうが、(細かい話になるが)魚が4匹パックで480円を、5匹パックなら500円とされれば、つい必要でなくても5枚パックを買ってしまうのが人間だ。

この時、どうして4人家族なのに5枚を買うのかと疑問に思うのはビジネス向きではないと思う。逆に、今すぐには不要な1、2枚のために、大きめの冷蔵庫が必要になるのではと考えるのがビジネス的な発想なのではないか。

売り文句のウソと真実

その冷蔵庫は大型化していると言われて久しい。当然大型化すれば消費電力も増える。夏の日中の電気消費が多い2大要素はクーラーと冷蔵庫とされる。メーカーはもちろん省電力化に力を尽くしているが、それは同じ容量のクーラー1台、冷蔵庫1台と比べた話だ。冷蔵庫を大型のものに買い替えれば、当然その家庭の電気代は高くなるのに決まっている。メーカーはそれでも消費者が買いたいような理由をつける。

服だって同じことだ。タンスの中に納まりきれないほど持っているくせに、メーカーや店では理由をつけて売ろうとする。そして、私たちはそれに乗って買ってしまう。
事業を興す時に、やりたいことをするのが一番であることは間違いない。しかし、それがビジネスになるかどうかは別問題だ。やりたいことをやって当面は満足できても、それが商売にならなければ長続きはしない。何を隠そう、私もそうだった。私の場合、「やりたいこと」というより、「それしかできない」という理由で、つまり「背水の陣」のような恰好で始めたのは良かったものの、うまく軌道に乗せることができなかった。今から考えても、ビジネスモデルが甘かったように思う。それに加えて、世の中の技術の進歩も十分に考え切れていなかった。

「want」の爆発力のすさまじさ

ビジネスになるかどうかを考える時に考えるべきことがある。それは今考えている商品やサービスと顧客との基本的な関係についてだ。よく言われることの一つに、「should(~すべき)」「must(~しなくてはならない)」「want(~したい)」のどれに当てはまるのかを考えてみるというものだ。

最初の「should(~すべき)」というのは、売ろうとしている商品やサービスが自分が考えてみてとても良いと思うものだから、世の中の人たちはそれを買うべき(買って当然)と考えることだ。当然そううまく世の中が動くものでなく、自分の思い込みが激しいに過ぎないことが多い。これではダメだ。

それに比べると「must(~しなくてはならない)」はビジネスの可能性はある。例えば、「病気にならないようにするにはこれを飲まなくてはならない」「法律を遵守するためにはこれを買って備えておかねばならない」というものだ。

しかし、それも「want(~したい)」にはかなわない。人々の欲求の持つ爆発力はすさまじい。最近、スマホの調子が悪く販売店に行ったときのこと、スマホにも価格の高いものから安いものまで様々あるが使い方はほとんど同じだ。それでも高価なものが売れるというのは、タップした時の感じが違ったり、外装に「匠の技」が使われていたりする違いだったりする。
こうした人間の非合理性を理解した上での経営者としての合理的な行動が、ビジネスを軌道に乗せるかどうかの分水嶺になるのだ。