最先端技術だけが求められるのではない

アメリカの経営学者であるピーター・ドラッカー氏が命名したとされる「シンデレラ商品」というのを聞かれたことがお有りだろうか。これは市場規模が小さくて、一定の需要があるにも関わらず、業界の中では見下げられて嫌われている商品のことだ。改良を加えたり、商品の種類を増やせば、きっと顧客から喜ばれて売り上げ増につながるのに、誰も手を付けようとはしない。その「シンデレラ商品」に手をかけたり力を入れると、思いもよらない売れ行きを示すことがある。

「シンデレラ商品」は商品が衰退したり、忘れられた商品でも素材を変えたり、作り方を変えたり、売り方を変えたりすることで、新しい命を吹き返すことがあるというものだ。その一つ、手がかかり過ぎるために大手が扱えない「ローテク商品」は、小さな会社や起業間の無い人にも見直す価値がありそうだ。個人でしている飲食業においても、オーナーによって料理も味も店の雰囲気も千差万別だ。これら手作りの「ローテク料理」には、大量生産を得意にする大手チェーン店もかなわない。もちろん大手は大手なりの需要があるが、小さな個人の店でも存在はできる。

地味な中にも花はある

美容院、デザイナー、コピーライター、コンサルタント業など、これらはみんな職人業なので大量生産には不向きだ。「手作りのローテク商品」として価値を作りやすいと言えそうだ。

紳士服を販売していたある東京の会社は、事業拡大に失敗して随分前に倒産した。しかし、その販売会社を営んでいた社長は、次に服のリフォーム業として再起を果たし、利益もしっかり上げている。服のリフォーム業というのは、ズボンの裾上げやサイズ合わせ、つぎはぎなどを専門にする。一定の需要はあるものの、単価が1件当たり数百円から良くても数千円という小さな市場だ。派手なアパレル業界の中にあっては、「都落ち」と呼ばれる仕事で、大企業はまず絶対に手を出さない。これがアパレル業界の「シンデレラ商品」だったというわけだ。

業界内ではこのように見下げられた分野だったものの、服を買えばズボンの裾上げなどは必ず発生する仕事でもある。これまでちょっとした傷でも「消費は美徳」と処分していた風潮が見直されつつある中、この社長が近所の洋服店や紳士服チェーンなど飛び込み営業を始めると、面白いように仕事がもらえたと振り返る。

料理用ワインなどの例も

これは厳密に言って「シンデレラ商品」と言えるかどうか微妙かもしれないが、グーグルで検索すると料理用ワインの例が紹介されている。ワインは飲料用だけでなく料理用にも使われていて、その料理には飲料用が使われる場合もあるそうだが、より使いやすい料理用にワインが重宝されるという。その料理用ワインでは家庭用でシェアの1位をサントリーの「料理天国」が占めるそうだ。その赤と白を合わせたシェアは実に45.8%もあるそうだ。特にこれといった販促活動もせず概ね希望小売価格に近い値段で売れているそうだから、メーカーにとってこれは「おいしい」商品であることは間違いない。

医療機器の分野でもそれはある。あるエレクトロニクス機器メーカーが開発したのは病院向けに医薬品のチェックを行う機器だった。医薬品に貼られたバーコード情報などから種類と数を瞬時に特定し、請求漏れの防止や最適な投薬につなげることができる。使われている技術はどこにでもあるものだ。これまで手術中に使われた医薬品のチェックは看護師の手作業に頼っているため、どうしても漏れが生じ勝ちだったといわれる。着眼点さえ良ければ、ローテクでも十分に戦える例だ。

ローテクでもできることがある

これまで「仕方ない」と思いながら続けている慣例であっても一歩引いて見た時、どれほど些末なものに効率を阻害されているかを気付かされる瞬間がある。そんな「仕方ない」と諦めていたものを断ち切った時、これまでのローテクでも気持ち良く使えるモノやサービスができる。こうして自ら考えて生まれた商品やサービスは、従業員にとっても最先端のものと同じく誇りを持って売ることができる。そして、たとえそれが誰でも作れるようなものであっても、効率の良い作り方をとことん考えていくうちに、市場はどんどん広がっていくことになる。

中小・零細企業などでは使える経営資源に限界があるため、「価格をもっと安くできないか」「品質が悪い」「納期対応が悪い」といった顧客からの声にもなかなか手を付けられないでいるケースが多いと聞く。しかし、そんな中でもちょっと視点を変えてみれば、まだまだ「シンデレラ商品」を発掘できるのではないか。どうせ苦しむのなら、今できる小さなことから取り組むと同時に、顧客の立場に立った不便さをシミュレーションしてみるというのはどうだろう。未来への可能性はそれを諦めた時になくなる。自らはなくならないものだ。