インスタ映えを活かす

出張したついでに近くにあった水族館に立ち寄った。約1年前にこの水族館に行った時に何か所か模様替えしているところがあって、それがどのようになったのか少し気になったこともあった。

行ってみて驚いたのは、さほど費用をかけているとは思えないオブジェがあったりしたのだが、そこを訪れた観光客らしき人達が、皆一様に携帯で写真を撮っていた。今流行の「インスタ映え」する場所が作られたのだった。

これまではこの水族館も恐らく、顧客獲得のために広告やマーケティングに大量に資金を投入して消費トレンドを作り出してきたのだろうが、個人的な感情や体験を誰かとシェアしたいという顧客層の欲求を満たしたマーケティング手法を導入することで、評判が口コミで自律的に拡散することを狙ったのだろう。当日は訪れる若いカップルや家族客で満員の状態だった。

飽きられるのも早いとされるこのご時世、この人気がいつまで続くのかとも思うが、従来のマーケティング手法によらない新しいやり方で、資金がなくとも顧客獲得の工夫ができるようになっている。

音声、ビジュアル検索が進化

最近は「アマゾンエコー」や「グーグルホーム」などAIスピーカーを用いた音声ショッピングも立ち上がりつつあるようだ。私の周りでもすでに数人これを利用している。音声ショッピングは話しかけるだけで買い物ができるうえに、音声AIは今後スマホや腕時計、ヘッドフォン、車など様々なデバイスに組み込まれようとしている。これが一般化すると、商品検索の在り方が劇的に変わるとされている。音声検索の場合、検索結果をいくつも伝えることは現実的ではない。アマゾンやグーグルのAIが消費者に代わって最も欲しいと思われる商品を、購買履歴などをベースに独自のアルゴリズムで選ぶことになる。メーカーはAIに淘汰される時代が来ようとしている。

音声だけではない。写真や動画を使ったビジュアル検索も商品の選び方を変えようとしている。SNSなどに投稿されている写真や動画から、そこに映っている商品や類似の商品をAIなどに探してもらうという買い方が今後主流になるのかも知れない。欲しい商品がはっきりしていない場合でも、保存する画像やイラストなどを見ながら具体化していない欲しいもののイメージを固めていくのだ。実際にそうしたサービスへの取り組みもすでに始まっているという。

チャットで収益率を大幅に向上

チャットを使ったマーケティングで従来の常識を覆した例も出てきている。中古車販売店ガリバーを運営するIDOMだ。従来はコールセンターで潜在顧客を店舗に誘導していたのだが、チャットで中古車の写真を送るなどして来店前に具体的に買いたい車を特定してもらうのだ。電話では勧めたい中古車の状態を詳しく説明できず、結局顧客は購買意欲が膨らむ前に来店することが多かったが、これだと欲しい車のイメージが固まったうえでの来店なので、客一人当たりの収益率が大幅に高まっているとされる。

いずれもデジタル技術を使って消費者を捕まえていく取り組みだが、これまでにはない切り口で消費者層を取り込もうとしている例もある。それが大手企業がこれまで取り組んできたマスを狙ったブランドに対して、小さなブランド、例えば商品を期間限定の売り切り型にして高速回転させる試みが化粧品メーカーで始められている。

いつの時代も若者はトレンドに敏感だが、その移り変わるスピードはかつてないほど速い。マスブランドを育成している時間はなく、そのために莫大な資金を投じるのはリスクが大きいとの判断による。

スモールマスをいかに取り込むか

マスを追い続けることの厳しさを認識しているのは化粧品メーカーに限らない。ブランドを作る従来のプロセスは崩壊してしまっているというのが今や一般的な見方だ。マスはなくならなくとも、ミドルやスモールをどう取り込んでいくかが重要視されている。

例えば、性別や年齢といった属性だけを頼りに潜在顧客にアプローチするのでなく、デジタルを駆使して、時間と場所で新たな消費者集団をスモールマスとして浮かび上がらせ、購買意欲を喚起させる方法がある。動画広告を食事の支度をする夕方時に指定し、調味料の売り上げを上げたスーパーや、動画広告をサラリーマンの帰宅時に合わせて売り上げを上げた缶チューハイの例などもある。

こうした新たなマーケティングでは、顧客の実生活に関わる情報をきめ細かく集めることが可能になる。ただ、データの管理が不十分だと即座に市場からの退場を命じられることになる。政府の独立機関である個人情報保護委員会は、個人情報保護法に加えて、協力先なで対象にした情報漏洩対策など、企業が取り組むべき5つの注意点をまとめている。これらの取り組みは必須の時代になっているのだ。