小さな改善・改革が第一歩

仕事柄、多くの中小企業の製造現場を見てきた。そこでは日々、本当に小さな改善の積み重ねが繰り返されているのが常だった。中には生産に要する機械も自らの手で改良したり、時には始めからその開発に携わることも稀ではない。現場の方に伺うと、その一つひとつは本当に取るに足らないものであると謙遜されることが多いのだが、大きなインパクトや変化はそれらが累積することで起きていることが良く分かる。それは日本の製造業がこれまで世界を相手に強さを誇ってきた原動力ともなっている。それを製品やサービスの開発にももっと生かそうとする動きが盛んになっている。

企業の現場では製品やサービスの寿命が年々短くなってきていることへの危惧がよく聞かれる。そうした問題の背後には時代の変化に対応できていない企業の開発体制がある。厳しい見方かもしれないが、まだ多くの企業では自分たちの都合に顧客の方が合わせてくれるはずだという前提で製品やサービスの開発が行われているのが実態なのではないか。最終的には工場の稼働率、営業に携わる従業員の効率化を問題としていて、それを引き上げるための開発と考えているように思えることが少なくない。顧客はコントロールの対象ではなく、共に価値を創造するためのパートナーだと考えることが大切だ。

セミの一生をなぞる製品・サービス開発

街中のコンビニでは、あるメーカーの新商品がわずか3週間でその7割までがコンビニ側の発注のカット(在庫日が無くなった時点での追加発注の打ち切り)の対象になるというメーカーの調査がある。商品が菓子類の場合、企画立案に約半年をかけ、企画がまとまると開発段階へ進み、量産用の機械を発注し、全国一斉販売をにらんで商品を作り置きする。そうして満を持して発売にこぎつけた商品の大半が、あっという間に店頭から姿を消してしまうのだという。これは決してこのメーカー特有の話ではなく、業界では日常的なことなのだそうだ。まるでそれは大半を土中での成長に費やし、地上で暮らすのは1週間ほどしかない「セミの一生」のようではないか。

このような時代に今までと同じ考え方で製品やサービスを開発していて良いのだろうか。顧客が望まないことをひたすら追い求めることに何の意味があるのだろうか。しかし、そんな製品やサービスの開発方法にも新たな動きが生まれている。顧客自らが既存のものの改良を行い、それが発端となって企業の新商品やサービスにつながる動きが出てきているのだ。例えば、ウインドサーフィンやスノーボーディングといったスポーツ分野では、それら商品の改良がまず先端的な顧客によって考案・製作されていて、主要な改良の約6割程度が顧客自身によるものとされている。

先端的な顧客に注目

例えば、車椅子の場合でも実際に公道で使ってみると、自分で動かすことが難しかったり、後ろから押してもらう場合にでもバランスを崩すことが多くある。そんな時は人力車のように前から引いていく方法もあるとの気づきは、なかなか顧客でないものの身からは分かりづらいことが多い。そんな時、先端的な顧客はそれを自ら改良し、それを使っていこうとする。このように、先端的な顧客が持つ意義は大きい。それはやがて直面する大多数の顧客に先行して新たな問題に直面していて、その新たな問題に実際に解決手段の提供を実現しているからだ。

この時大切になってくるのが、それでは企業はどうやってこうした先端的な顧客を発見していくのかという点に尽きる。神戸大学の小川進教授はその方法の1つに、標的とする市場の最先端の動きに注目するというものを挙げる。例えば、自動車メーカーがF1レーシングチームの高性能ブレーキを追求するグループの動きに注目することが挙げられる。もう1つは、自分たちの製品やサービスと似ている市場の最先端の動きや、最前線で極端な課題に直面している個客の活動に注目するということがある、と小川教授。ブレーキの開発では戦闘機をオーバーランしないで停止させる方法などに強い関心が持たれているのだという。

もっとネット利用を

このように製品やサービスの開発においては、時に先端的な顧客に任せるぐらいの勇気を持つことも大切なのだということが分かる。「ある特定の話題や分野に強い関心を抱く人々は自分と同類の人々を知る傾向にある」と考え、そうした人たちの「知り合いの場」を芋づる的にたどることで、先端的な顧客を探し出すことが肝要だと小川教授は話す。その先端的な顧客が他の顧客とつながっていると考えているのだ。しかし、一見大きな効果が期待できそうなこの方法にも、実は問題があると指摘する。それは有望な製品やサービスのアイデアを持つ顧客を見つけても、次の開発ではまた別の顧客を見つけなければならないことだ。

そこで登場してきているのが、いくつかのベンチャー参加型企業が実際に展開している個客参加型の製品・サービス開発がある。インターネットを利用して、企業が提供する掲示板などに、顧客が自分の意見を自由に書き込む形になっている。いわば、企業が先端的な顧客を探すのでなく、顧客の方で企業を探すという形だ。顧客から提案された製品やサービスの案や修正案をネットを通じて行い、そのやり取りはネット上で誰でも見れる仕掛けになっている。こうすることでそれらの事業化に当たっても市場リスクが低く抑えられる形となっている。このようにネット利用をもっと考えても良いのではないだろうか。