問題はトラブルの対処の仕方で起こる

仕事上のことに限らず、人間誰しも生きていれば、自分に非があろうとなかろうと、トラブルに見舞われることは避けられない。そして、そのトラブルへの対処の仕方次第で、仕事であればうまく再軌道に乗せることができたり、逆に致命的な打撃となって、果ては企業の存続問題にまで発展する。その典型例がマスコミに相次いで取り上げられる企業の謝罪会見だ。皆さんはトラブルが起きた時、見て見ぬふりをして、それがいつの間にか解決している、というような都合の良いことを期待していないだろうか。表面上トラブルが無くなったように見えても、それはただ問題を先送りしているだけかもしれない。

トラブルの元になるミスは、誰でも犯すものだし、そのこと自体が問題視されることはめったにない。それが大きく問題になるのは、トラブルが起きた対処の仕方によってである。そこを絶対に忘れてはならない。トラブルが起きた時、それに真正面から向き合って、正直に対応するのが大原則。当たり前のことだが、それができない人の方が圧倒的に多い。実際に自分が起こしたミスであっても、自分だけが悪いのではないこともあるだろう。でも、だからとって自己弁護を優先させてしまうと、トラブルを起こされた方としては納得できるものではない。

必要な誠実さと勇気

トラブルが起きた時、人はなるべくそれを隠そうとする。隠せなくても穏便に済ませたい、できれば責任を取りたくないと思うのが自然だ。だからトラブルに真正面から向き合うのには、何より誠実さ、そして勇気が必要になる。それらが無いと、知恵を目一杯振り絞って何とかそのトラブルから逃げようとする姿勢が先に立ってしまう。正直に向き合ってトラブルに取り組まないと、仮に自分が犯したミスをうまく言いくるめることができても、何となく感じる不信感は拭えず、それが仕事ならそんな相手の姿勢をその先も信用して取り引きを続けることなどできないものだ。

以上のことが大前提で、その上でまずトラブルが起きた時に大切になるのは、初動をいかに素早くとるかだろう。トラブルによってはその具体的な対処の方法まですぐに思いつかないということもあるかもしれない。そんな時もまず、起きたトラブルの事実を相手に報告することだ。そして、今どういう対応を取ろうとしているのか、そしていつまでに何ができそうかを伝えることだ。この時必要なのは、我慢する心だ。相手が感情的になってミスを攻めたとしても、こちらが同じように感情的になっていては収まるものも収まらない。たとえ相手に失礼なことがあったとしても、怒りの感情が長続きすることはまずないことを知っておくべきだ。

原因とともにトラブルに発展した理由を考える

トラブルの解決のためには、その原因を探るのは必要だが、それが何故トラブルにまで発展したのかを考えることも大切だ。例えば、誰かがミスをしたことも、それがチームの中で何故カバーできなかったのか。仮に一人がミスを起こした場合でも、それが表に現れる前に解決できることが組織で働くメリットのはず。何故それが働かなかったのかという過程が問題だ。こうしたことを考える際には、できるだけ人の名前を出さないようにした方が良い。人の顔を思い浮かべてしまうと、冷静な判断ができなくなってしまう。仮にトラブルの原因の大半がその人にあったとしても、前向きな話ができないのではしょうがない。

また、トラブルに対するのと同じような冷静な対応が、トラブルの相手に対しても必要になる。トラブルを起こされた相手が何を求めているのかを冷静に判断するのだ。もともと相手はただこちらのミスを指摘したかっただけかもしれない。あるいは謝罪を求めているのか、商品の交換、返品、修理費用、治療費などを求めているのか。それによって、こちらのしなければならない対応も異なってくる。どうしても折り合いが付かないような場合は、訴訟にまで発展することもあり得るだろう。最悪の場面も覚悟しながら、ここでも誠実さや勇気は必須の要件になる。

経営者に必要な察知する能力

よく相手に謝る際に、「反省している」という言葉が使われる。しかし、「反省している」というと聞こえは良いものの、ただミスをして落ち込んでいることを指すだけのことが多い。これでは状況はまったく変わらず、トラブルからもただ逃げているだけに過ぎない。これが例えば親しい友人同士や恋人同士の間でなら許せても、「反省している」だけでは仕事の上ではまったく何の意味も持たないことを肝に銘じるべきだ。仮に金銭的に相手に損賠を与えていないという場合であっても、トラブルのためにプロジェクトが中断したり、相手のスケジュールに影響を与えているかもしれない。失った時間は取り戻せないのだ。

ある経営者に言われたことがある。その経営者は「経営者にとても大切なことの一つが『察知する能力』だ」と強調しておられた。つまり、これから何が起こるかを想像できることが大事だということだ。それさえあれば、大抵のトラブルも乗り越えられることができそうに思う。例えば、ウイルスが蔓延して従業員が出社できなくなったら、次に何が起こるのか。台風や地震で工場の機械にトラブルが起きたら、次に何が起こるのか。それを想像して、現地を視察して確かめ、必要なアクションを取る。普段からの注意深い観察がその能力を養うという。それができれば、大抵のことに動じないで対処できるはずだ。