多様化・複雑化する社会

ますます多様化・複雑化する社会をどのように捉え、そのニーズを事業として展開していくのかは、これからの企業が考えなければならない大きな関門だとされる。これまでなら「少子高齢化」「ダイバーシティ」「資源の有効活用」などのように、それぞれ単発の問題に絞って考えていれば済んだことでも、これからは「どのニーズに応えていくのか」「何故その問題にこだわるのか」「他のニーズには応えないのか」まで考えなければならない時代だという。そこで「取り残されたニーズ」を顕在化し、取り組んでいくことができれば、周囲に新鮮な共感のネットワークを広げることができるかもしれない。

その一つの象徴が国連が提唱したSDGs(持続可能な開発目標)だろう。17のゴール、169のターゲット、232のインディケーターで、全世界の全体最適化を目指す。今や大企業はもとより、中小企業においても積極的にその考えを取り入れようとする動きが活発化している。しかし、それをお題目のように捉えるだけでは能がない。というか、むしろただの看板だけとの批判を浴びかねない。SDGsのどのような問題に取り組むとしても、それは今までの事業領域の見直しにつながる可能性を秘めている。SDGsを自社の取り組みとして挙げるなら、そうした可能性にも果敢に挑戦をしていかねばならない。

中小企業に有利な時代

取り組まねばならない問題が複雑になればなるほど、その状況は中小企業にとって有利になる可能性を持つ。戦国時代の戦を考えてみても、ただ広い平原で戦うだけなら、それは兵士の数が多い方が圧倒的に勝つ確率は高くなる。しかし、山あり谷ありという複雑な地形でなら、少ない兵力でも勝つ可能性が出てくる。条件がシンプルであればあるほど、その条件で優劣が決まってしまう。しかし、条件が複雑になれば、有利になる条件を見つけるチャンスが増えるということだ。だから社会の問題が複雑になればなるほど、それは中小企業にとっても活躍できる場が多くなるということでもあるのだ。

これは生物の世界でも同じだ。熱帯雨林のような資源が豊富で、環境が多様なところでは、様々なニッチが存在する。そして、様々な生物が勝者となり生存できているのだ。複雑な環境がたくさんのニッチを生み、激しい競争社会では生きられないような多くの種類の弱い生物も、生存の場を得ることができるのである。だから、中小企業は複雑で問題の大きいことを嘆くのでなく、それをチャンスとして前向きに取り組まなければならない。しかし、現実にはなかなかそう前向きに捉えることも難しい。何故ならせっかく見つけたニッチも、すでにそこにはほとんど先に居る企業があるからだ。

変化のスピードに対応する

そこがニッチ市場であるほど、先の企業を押しやってまで参入するメリットは少なくなる。しかし、たとえそうであっても、もう一つ「変化のスピードが速く激しい」ことを考慮に入れると、また状況も違ってくる。忘れてはならないのは「ニッチ市場はいつも新たに作られている」ということだ。それをある一つのタイミングだけを見て判断するから、「すでに参入できる余地はない」と間違った決断をする羽目になる。自然も産業界においてもみんな同じ。状況は刻刻と変わっている。その変化をしっかり見定めなければならない。だから、そうした観察力、情報収集力はとても大切だ。

自然界では「パイオニア」という生き方がある。新しくできた空き地に小さな雑草がたくさん生えている。実は新しい環境は、強者がすぐには入り込めないニッチだとされている。環境が破壊された不毛な土地は、土の表面が露出しているので土が乾燥しやすい。また、栄養分も少なく、土地はやせている。決して植物が生育するのに適した場所ではないのだ。いかに強者たる植物も、そんな場所では実力を発揮することはできない。しかし、そんな不毛な土地こそが弱い植物である、小さな雑草の生存のチャンスの場なのだとされている。もちろんそんな地もパイオニアが開拓した後は、やがて楽園に変わっていく。そうなれば強い植物が入ってきてパイオニアはいることはできなくなるが、それでいいのだという。パイオニアはまた新たな不毛の地を目指すからだ。

どんな情報収集を行っていますか?

再び中小企業の問題に戻ると、今起きている社会の複雑化は同時に、ニーズを潜在化させ、そしてそれぞれに対応する狭間に陥るニーズも増えている。これに対応するための情報収集力が大切なことは先ほどもいった通りだが、もう一つ、課題解決に向けた構想力も大切になってくる。

その情報収集力について述べれば、自社の扱う商品やサービスの情報に関する業界、顧客や取引先からの情報を集めるだけでなく、企業経営に関わる株主、取引先、従業員、顧客などの納得感や共感の度合いまで目配りしておかなければ変化の兆しを捉えることはできない。さらに言えば、自社に影響のありそうな法規制の動向や行政の情報、競合他社の活動などについての情報収集も求められる。その情報収集があって、それらに基づく独自の事業の構想ができるのだ。だからこれからの時代、情報収集は欠かせない。