アマゾンなしでは生活できない世界

アマゾンで買い物をする人もしない人も、今や私たちはアマゾンと無関係に暮らすことはできなくなっている。アマゾンは1995年にジェフ・ベゾスによってシアトルで創業されて以来、「地球上で最も豊富な品揃え」をスローガンに急成長してきた。では、「地球上でもっとも豊富な品揃え」とはどれほどの品数かというと、アメリカのマーケットリサーチ社によれば、2016年5月時点におけるアマゾンのアメリカでの取り扱い商品数は1220万品目にも及ぶという。ちなみにコンビニにおける品数は一般的に3000品目ほどだ。その桁外れの品揃えを可能にしているサービスが、アマゾン以外の外部事業者が商品を出品できる「マーケットプレイス」だ。

アマゾンのマーケットプレイスの特徴はアマゾン直販の商品と同じフォーマットで購入できることにある。そのマーケットプレイスで取り扱っている商品は、アマゾン直販の品数の実に30倍以上、約3億5000品目以上にも上る。外部事業者がマーケットプレイスを活用したくなるサービスの一つが「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」と呼ばれるやつだ。これはアマゾンに出品する中小企業に様々なインフラを提供するもので、倉庫、在庫管理、決裁、搬送、カスタマーサービスまで代わりにしてくれる。つまり、FBAを利用する出品業者は自社製品をアマゾンの倉庫に送れば、ほぼ何もしなくて良いというものだ。

CCCの異常な数値が示すもの

アマゾンの活動を支える要因の一つが財務戦略にある。ベゾスが重視し、その急成長を実現したのが「キャッシュフロー経営」だ。通常の企業はキャッシュフローの中から設備投資をし、借金を返済し、利益を計上する。ところがアマゾンは長期間利益を計上せず、赤字になったとしてもほとんどの資金を設備投資に回してきた。アマゾンは1997年の上場以来、株主に配当を一度も払ったことがない。アマゾンは採算を度外視してでも超大型の物流倉庫や新規事業などに毎年巨額の資金を投資し続け、シェアを拡大してきたのだ。

何故それができたのか?その秘密が、小売業界でも突出したアマゾンの「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」にある。CCCとは顧客から代金を回収するまでの期間のことを指す。この数値が小さければ現金を回収できるサイクルも短いということを意味し、企業は手元にキャッシュを長い期間持つことができる。小売業界の一般的なCCCは+10日~12日だが、2017年12月のアマゾンのCCCはなんと-28.5日。つまり、商品が売れる約30日前から手元に現金が入っているということになる。アマゾンは売り上げが伸びれば伸びるほど、手元に入る資金が極大化する「キャッシュマシーン」と化しているということなのだ。

シェア重視が悪いわけじゃない

しかし、アマゾンが非常に独創的な経営をしているかといえばそうでもない。採算制度外視で投資し、シェア獲得を重視するという経営は、1980年代の日本企業のスタイルでもあった。日本企業は1980年代にエレクトロニクスの分野におけるシェア重視で世界を席巻した。規模を大きくすることで安値での提供を可能にし、安値だからさらに商品が売れていった。

いま、「経営環境が激変したにも関わらず、大きいことはいいことだという高度成長期の感覚を引きずった日本企業が多い。その姿勢を変えよう」という評論家が少なくないが、日本企業はシェア重視で停滞を招いたのではないことがここから分かる。どの事業でシェアを伸ばそうとするかを見極め、そこでいかに顧客ニーズに合ったものを提供できるかが重要なのだ。アマゾンの発展は日本企業にビジネスの本質的視点が欠けていたことを教えてくれてもいる。

クラウドサービスが陰で支える

そしてアマゾンの本当の強さは別のところにある。それは「アマゾンウェブサービス(AWS)」と呼ばれるクラウドサービス、つまりサーバーを提供する事業だ。それまで企業は大金を投じて独自のサーバーを開発していたのが、AWSは巨大なサーバーを用意し、その中の高度なデータ解析やAI(人口知能)を活用したサービスを、オンラインであらゆる企業に提供する形にした。AWSにより、企業は大金をかけてサーバーを持つ必要が無くなった。まさにアマゾンは「クラウド革命」を起こしたのだった。

クラウドサービスはアマゾンが得意とするスケールメリットを働かせやすい事業でもある。例えば、日本企業は朝8時から夜5時までコンピューターを利用するが、深夜はほとんど使わない。同規模のアメリカの企業がその時間帯に同じコンピューターを利用できたなら、それぞれの利用コストは半分になる。これを世界中の企業で行うことで、アマゾンはさらに安くクラウドサービスを提供していったのだ。このAWSの営業利益がアマゾンのどの事業より高い。つまりこの売り上げがネット通販事業の赤字を補い、また他の事業の設備投資に回されていることで、アマゾン全体を支えているのだった。実際、アマゾンはIT業界では世界最大のクラウドサービス提供会社だと認識されている。
(以上、参考文献:「『amazon』 成毛眞著 ダイヤモンド社」)