ナンバー1よりオンリー1が理想

マーケティング用語に「ニッチ戦略」という言葉がある。この「ニッチ」とは中小・零細企業が生き延びる術として対象とすべき、大きな市場(マーケット)と市場の間の隙間にある小さな市場を指す。それを「戦略」にするというのは、その小さな市場を狙って相対的に優位なシェアを取ることで、収益を上げようとする戦略のことだ。マイケル・ポーター教授の提唱する基本戦略のうち、「集中戦略」とほぼ同義とされる。このニッチ戦略では、選んだ事業分野でナンバー1、さらにオンリー1になることが望ましいとされている。

ナンバー1を目指すのは、市場シェアが獲得できるほど、規模の経済性や経済効果が働いて収益性が向上するとされるからだ。また、顧客から見ても、一つの事業分野でせいぜい一つのブランドしか認識していないことが多く、ナンバー1でなければ顧客の頭の中の選択肢に昇ることが難しいためとされる。例えば、DVDレンタルであればTSUTAYA、日本のアパレルSPAであればユニクロといった具合にすぐに名前は上がっても、それ以外の名前となるとなかなか思い浮かばない人が多いというのが現状なのだ。

ニッチは自分だけの場所

この「ニッチ」はもともと、装飾品を飾るために寺院などの壁面に設けたくぼみを意味する言葉だそうだ。それが転じて、まず生物学の分野で「ある生物が生息する範囲の環境」を指す言葉として使われるようになったという(「弱者の戦略」稲垣栄洋著より)。生物学では、ニッチは「生態的地位」つまり、「自分の適所」として訳されている。つまり、「生物が多種と共存するために見出す自分だけの場所」という意味だ。一つのくぼみに一つの装飾品しか掛けることができないように、一つのニッチには一つの生物種しか住むことができない。

もう少し詳しく見てみると、生物にとって「ニッチ」とは、単に隙間を意味する言葉ではないとされる。すべての生物が自分だけのニッチを持っている。そして、その「ニッチ」は重なり合うことがない。もし、ニッチが重なることがあれば、重なったところでは激しい競争が起こり、どちらか一方だけが生き残るだけだからだ。つまり、ナンバー1になれるオンリー1の場所こそが、生物にとっての「ニッチ」ということになる。そのため、すべてのナンバー1になれるニッチを探し求め、他の生物とニッチが重ならないようニッチをずらしていくという。

条件は小さく、狭く、細かく

どんな生物もナンバー1になる場所がなければ生きていくことができないーとすれば、弱い生き物はどうしているのだろうか。

例えば、「百獣の王」としてサバンナでライオンと張り合い、ナンバー1になることは難しくても、他の動物が寝静まった夜に行動すれば生きることのできる可能性が生まれる。ただ、夜に行動する動物は他にもいるから、それだけではナンバー1になるのは難しい。そうであれば、他の生き物は見向きもしないような土の中のミミズを食べるニッチがある。それがサバンナのハリネズミのニッチだそうだ。まさにこのニッチでハリネズミはナンバー1なのだ。

このように条件を小さく、狭く、細かくすれば、限られたニッチの中でナンバー1になれるチャンスが生まれてくる。先に述べたミミズだって、随分と下等な生物のようなイメージがあるが、決してそうではないそうだ。ミミズはもともとは頭や足のような器官を持った生物だったと考えられているという。それが肉食や草食でもなく、土の中で土を食べて棲むという生き方を選んだために、そのニッチに合うように様々な器官を捨てて体の構造を単純化したのだとされる。決して強い生き物には見えなくても、ミミズはミミズでナンバ―1なのだった。

自分にしかできないニッチを見つける

一方の強者の戦略は単純だ。強い生物はあらゆる場所でナンバー1になることができる。そのため、どんどんとそのニッチを拡大していくのだ。弱者がどんなに新たなニッチを開拓しても、そこに強者が入ってくる。これはまさに、中小・零細企業に対する大企業のようなものだ。小さな企業がいかに差別化を図っても、大企業はその気になれば簡単に模倣するなどして、シェアを奪うことができる。しかし、そのままでは小さな企業は立つ瀬がない。生き物の世界では弱者が強者に真似のできないニッチをそれぞれ持っている。実際に持っているから生きているのだ。それでは、企業も強者に真似されないようなニッチをどう見つければ良いのだろう。

その答えは、大きな者に対しては大きさで勝負をするより、小さなことがむしろ有利になる場所で勝負をすることだとされる。例えば、相撲の土俵の中ではゾウは自在に立ち回ることはできない。要はナンバー1になれる土俵を自ら作ることだという。成功している中小・零細企業を見ていると、その絞り方が「誰にも負けない」というか、「誰にもできない」ところで行っていることが多いように思う。2020年東京オリンピックの種目は339とされる。ということは339の世界チャンピオンがいるわけだ。競技が100m走だけでないように、自分にしかできない記録を持てる競技を自ら作ることを考えていこう。