人材不足に強い危機感

今日、中小企業の約半数が人材不足という問題を抱えていると言われる。実際にどのような事情から人材確保が必要となっているかを中小企業白書から見てみると、「仕事量の増加」や「多様化する顧客ニーズへの対応」、「新事業・新分野への展開」といった、景況回復や顧客のニーズの変化を受けて人材確保が必要となっている企業が4割超存在する一方で、「従業員の高齢化」や「慢性的な人手不足」といった、やむを得ない事情により人材確保が必要となっていると回答している企業も4割近く存在する。

また、事業展開の方針ごとに違いを比較すると、成長・拡大志向企業においては、「新事業・新分野への展開が停滞」、「需要増加に対応できず機会損失が発生」とする回答がそれぞれ6割近くとなっており、中核となる人材の不足が新事業展開や、成長への制約要因となっていることがうかがえる。安定・維持志向企業においても、「現在の事業規模の維持が困難」とする回答が54.6%と最も高く、「技術・ノウハウの承継が困難」が次いで53.0%となっている。特に中核人材が不足することで、事業規模の維持や、技能伝承が困難になることへの強い危機感がうかがえる。

しわ寄せが様々に影響

人材の不足に伴う経営への影響については、「需要増加に対応できず機会損失が発生」と回答した企業の割合は、成長・拡大志向企業で7割、また、安定・維持志向企業でも6割となっており、人材の不足が事業の成長に大きな影響を生じさせていることが分かる。

そして、中核となる人材の不足により「時間外労働が増加・休暇取得数が減少」と回答した企業の割合が事業展開の方針にかかわらずそれぞれ6割近くとなっている。これら中核人材の不足により、既存の人材へのしわ寄せが発生していること、管理的な人材が不足することで、マネジメントが停滞し結果的に長時間労働が常態化していること等が背景として考えられる。
また、成長・拡大志向企業においては、「能力開発・育成の時間が減少」と回答した企業の割合も59.0%と高く、人材育成の機会の減少、技術・ノウハウの継承が困難になるといった影響が発生し得ることが見て取れる。

労働人材の不足が職場へ与える影響については、「時間外労働が増加・休暇取得数が減少」を挙げる割合が大きく、成長・拡大志向企業においては71.0%、安定・維持志向企業においては68.3%と、他の項目に比べ突出しており、既存の人材への業務負担のしわ寄せが発生している可能性もある。

大胆に特色を打ち出そう

人材獲得の問題において、一般には新卒採用、中途採用の両面で中小企業は不利とされている。なぜなら、中小企業は待遇面、また企業の存続可能性の面で、労働者から選ばれにくい存在だからだ。実際、採用したい人材を獲得できない、在籍者の離職抑制ができず優秀な人から転職してしまうという現実がある。中には本人は良くても、親に報告をしたときに断念させられるという残念な話もある。しかし、私の独断で言わせてもらえれば、もともとそれは縁のなかった人ということで割り切って考えればいいのではないかと思っている。

では、どうすれば中小企業が人材を獲得できるようになるのか。まず、職場としての中小企業の特性を考えることだ。例えば、大企業よりも働き方の自由度を売りにすることなどは、十分に可能だろう。事業所が1ヵ所なら転勤する必要もない。また、仕事内容もある程度までは明確化できるなど、大企業と処遇面で直接勝負して勝てない中小企業でも、対抗するための手段はある。

そのために、中小企業はもっと自社ならではの特色を大胆に打ち出すべきだ。もちろん、モチベーションを維持するため、どのように金銭的報酬、非金銭的報酬を与えるか。特に、賃金や処遇のルールについては、見直しが必要だ。しかし、他所の企業と待遇面を競争するだけでは良い(欲しい)人材は得られない。

多様な働き方は中小企業から

人材不足の問題を放置しておくと、連鎖的に「メンタルヘルスが悪化」、「労働意欲が低下」、「人間関係・職場の雰囲気が悪化」といった影響が生じると考えられている。だから、中小企業白書でも事業展開の方針にかかわらず、4割から5割の企業がこれら3点を問題として回答している。また、「能力開発・育成の時間が減少」と回答した企業の割合も高く、既存の人材の業務量が増加することで、長期的な人材育成に取り組めなくなってきている状況も伺うことができる。

中小企業ができることとは何か。何より欲しい人材を特定することから始めよう。そしてその欲しい人材を獲得するための、多様な働き方への理解と対応を図ろう。それらをできるところから前倒しにして、進めていく必要があるだろう。国会で議論されるまでもなく同一労働にも関わらず賃金に格差があるのが今の大企業における実態だ。それに不満を持つ女性社員、パートタイム労働者などはたくさんいる。職務の範囲が明確に分かれていないことに対する不満も同様だ。これまでのしがらみに囚われることの少ない中小企業だからこそ、こうした働く環境面できめ細やかな対応もできるはずだ。