独特の雰囲気の中に「らしさ」がある

久しぶりで会った友人から「〇〇さんらしくて良かった」と言われたり、逆に思ったりしたことはないだろうか。この正月休みを過ごす間に、もう何十年も前に過ごした高校時代の同窓会があった。もちろん見た目はそれぞれに寄る年波に勝てない姿、格好をしているのだが、言葉を交わすと一瞬で昔の彼、彼女との関係に戻れることで、心からの懐かしさと同時に本当に安心もするし、ちょっとオーバーだが、それぞれに抱えている嫌なことやしんどい事もその間だけは忘れさせてくれるオアシスのような時間を過ごすことができた。

「企業にはブランド力」が大切と言われる。ブランド力と聞いてもピントこないと思われる方もおられるだろうが、私は個人が持つ「らしさ」と似たようなものだと思っている。私は普段自宅を事務所代わりに仕事をしているのだが、仕事がなかなか進まない時、ちょっとマンネリ化していると感じたときなどは近所の喫茶店に「出張」して仕事をする。その喫茶店に一歩足を踏み入れれば、穏やかで心地よい独特の雰囲気に包まれる。店内の落ち着いた配色の壁紙、耳障りにならない軽やかなBGM、控えめな接客など、あらゆる要素がその店らしさを作り出している。その一つひとつは決して大したものではないことかもしれないが、全体が醸し出す雰囲気に独特で他社には真似できない「らしさ」が確かにそこにある。

「らしくない」仕事に手を出して失敗

私が3年前に会社を立ち上げたばかりの時、もちろんそのようなブランド力というか、「らしさ」を作ることまで考えは及ばなかった。事業を何とか軌道に乗せようと考えるばかりで、自分の会社がどんなブランドなのかを徹底して考えることができていなかったように思う。それがいろいろ事業内容について試行錯誤するうちに、「らしさ」を作ることの大切さを実感していった。早い話、事業がうまく行っていない間は、「らしくない」仕事にまで手を出してうまく計画通りに事業が進まないことに悩んでいたのだった。

私が手がかりにしたのは、自分の過去だった。生まれてから自分が育った環境、学生時代に興味深く取り組んでいたこと、やり遂げることができたこと、就職して取り組んできた仕事、その時の想い、逆に数々の失敗を重ねたことなどを振り返っていると、自分がこれまで何を大切にしてきたのか、どんな想いで生きてきたのか、自分にとって大切なものは何なのかなどが徐々に浮かび上がってきた。私がしたことは何も大層なことでなく、誰もができることだ。それが「らしさ」の再認識につながり、自分らしい、それを企業ブランドに結び付けた仕事に力を注ぐことになったのだった。

「らしく」あることで自信

「私らしさ」をしっかりと考えたことの効果は絶大だった。まず何より私自身、それまで何となく腑に落ちないままに取り組んでいた事業を見直し、「らしさ」に根差して立案されたビジョンや戦略は「こうあるべきだ」という強い説得性を持ち、外部に対しても十分に理解、納得して追求できるものにすることができた。「らしさ」に根差しているからそれがブレることもない。時に判断を迫られる局面が今でも多々あるが、そんな時でも「らしさ」に立ち返って考えれば自ずと進むべき道が見えてくる。

例えば、新規事業の企画について。これは事業を開始した時から、私が悩んできた大きなテーマだった。何故なら、それまでの事業がなるほど「らしい」事業ではあっても、商品性に欠けていたからだった。そのため売り上げが思うように伸びない。もっと商品性があって、「らしい」事業とは何か。「らしさ」にこだわって考えた結果、今の事業に行き着いた。事業を具体的にお話しするとその宣伝のようになってしまって、ここでの趣旨とは異なるので控えるので分かりにくいかもしれない。しかし、まだまだ結果は伴っていないが、それでも以前とは異なり、心から自信を持って顧客に提案できることができるようになったということを分かっていただければと思う。

「らしさ」の中に成長の道筋

人に「らしさ」のない人なんていないのではないだろうか。どんな人でもその人が育ってきた環境や、今大切に考えている想いなどがその人らしさを形作っているのではないだろうか。もちろん人は変わることもできる。できるが、全く他人になれるわけではない。自分らしさを捨てて他人になろうとしても、そんなものはうまく行くはずがない。もっと自分を大切にしなければいけない。自分らしさの上に新たなものを獲得していくことが大切なのだろうと思う。企業だって同じことだ。

これを読んでおられる読者の企業の「らしさ」とはどのようなものだろうか。製品やサービスに「らしさ」はあるだろうか。そこに事業を成長させる大きなヒントが隠れていると思う。今、私が顧客から相談を受ける際、多少迂遠ではあってもその企業の歴史をひもとくことから始めるようにしている。歴史からその企業の核にある「らしさ」を見い出して、その上に新たなものを加えていく。そうすることで、その企業に適した成長や変革の道筋が見えてくるからだ。