デザインと経営の取り合わせ

「デザイン経営」という言葉をお聞きになられたことはあるだろうか。「デザイン」の思考や思想を会社経営に取り込むもので、経産省や特許庁も「産業競争力とデザインを考える会」を発足している。イノベーションを活性化するために必要なものとして「デザイン」が注目されているのだ。なかなか「デザイン」と「経営」が結び付かないという経営者ほど、知れば「目からうろこ」の考えだったりするのではないだろうか。

一般に「デザイン経営」とは、クリエイティブなデザインの発想を経営の視点にも取り入れることだと理解されている。米アップルの故スティーブ・ジョブズが経営にデザイン思考を取り入れていたことは有名で、新鮮な驚きを私たちに与えていた。彼は特にユーザーインターフェース(ユーザーエクスペリエンス)に力を入れ、ブランド力の向上に力を尽くした。

この「デザイン」を製品だけでなく、経営全体にも取り入れようというものだ。最近はシリコンバレーでもデザインに関するバックグランドを持つ創業者が増えているといわれる。自らデザイナーでない経営者は、デザイン責任者を経営陣の側に配置することで、デザイナー特有の発想による助言を得て、斬新なアイデアを生み、更なる発展につなげることができるのだという。

経産省も後押し

経産省と特許庁が公表した報告書では、この「デザイン」を単なる製品の外観をイメージするのでなく、「企業が大切にしている価値と、それを実現する意志を表現する営み」と位置付けている。それが一貫したメッセージとして伝わることで、「他の企業では代替できないブランド価値が生まれ」、さらに「社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付け、事業にする」ことで「イノベーションを実現する力である」とまで言っている。

「デザイン」にはこれまで考えられてきたより多くの役割があるようだ。それは課題の発見・解決、理念の共有であったり、前例の打破、顧客志向の徹底であったりといった具合だ。これまで数字をベースに理詰めで考えてきた経営戦略なども、デザイン的な思考を取り入れれば、数字ではとらえきれない価値を発見して共感を呼び込めることにつながるということだ。何だか難しいことのようにも思うが、もともと日本は潜在的なニーズをくみ取って新しい製品やサービスを出すことに長けていた。だから、「デザイン」を経営に応用することにも、慣れればそれほど大変なことではないのかもしれない。

先行して挑戦している大手

例えば、デザインの責任者が経営チームに参加するというのはどういうことか、経産省と特許庁の報告書から引き出してみる。

「キャノンでは、社内のデザインのスキルセットを集約し、シナジーを生むことで産業競争力の強化を図るためにデザイン室の統合が行われた。名称も総合デザインセンターに変更し、会長・社長の直轄の組織として位置付けている」。
「ヤマハ発動機では、『デザイン経営』を行う上ではデザイントップがハブになり、デザイナーと技術者、ビジネスマンとのアグリゲーターの役割を果たすことで、デザインをコアに置いた協働を進めている。地位の高い人間をデザインの責任者に置き、デザイナーが社内で自由に作業する環境を整えることで、デザインをスムーズに経営全体へ導入することができる」。
「ソニーでは、社長直下に事業部横断のデザイン組織であるクリエイティブセンターを設置し、全事業部における製品デザインの質を担保している」。

これらに共通しているのは、まず何よりデザインを企業戦略の中核に位置付け、デザインについて経営メンバーとコミュニケーションを取れるようにしていることだ。

経営デザインシートがお勧め

「デザイン」に対して経営のサポート役に期待するのは、①本質的な課題をつかむこと、②本来あるべき姿を考えること、③課題を解決するために行動することーの3つに要約される。そして、当たり前の話であるが、その3つのステップを繰り返すことが大切になる。とはいっても、最初は何もないとやりづらいだろうから、ネットで「経営デザインシート」を検索すると、フォーマット用紙がダウンロードできるし、その書き方の説明もなされている。一人でも簡単に取り組めるようになっている。これを使わない手はないだろう。

個人的な感想だが、真剣に取り組めば下手なコンサルタントを雇うよりずっと効果があるのではないだろうか。社内に改めてデザイナーを雇う必要もない。もっとも、私の周囲の起業家にもお勧めしているのだが、「時間がなくてなかなか…」といった反応が多い。実際に今の仕事が忙し過ぎて、将来に何の不安もないのなら別だが、要は面倒なのだろう。でも面倒だからといって、事業の将来を考えないというのはどうかしている。ここはひとつ、騙されたと思って経営デザインシートから挑戦されることを改めてお勧めする。