本当に一人でいい?

私が普段取り引きをさせていただいているのは従業員数が30~50名ほどの中小企業がほとんどなのだが、それ以外に地元の異業種交流会などに参加をさせていただいている関係で、個人事業主の方々とのお付き合いも多い。取引先との関係ではなかなか本音を引き出すことに苦労はしても、フラットな付き合いをさせていただいているいろいろな個人事業主との間では、本音のぶつかり合いで、そこからいろいろなヒントを得ることもできる。今回はその中から代表的なやり取りを紹介させていただくことにする。

個人事業主の方と話していて最も多いのが、「誰かと一緒にやらなくても、一人でやっていればいいじゃないか」というものだ。「そもそも人と一緒に何かを行うことが面倒」という意見には、私も感情的にはよく分かるし、私は今まだ従業員を雇うところまで行っていないので、「一人でもやって行ける」という意見も良く分かる。でも「一人でやれることには限界がある」と痛感させられもしている。それは物理的にもそうだし、私の考える能力が明確に壁となって、手掛ける事業の可能性を阻んできたとも感じているからだ。

大切な作業が後回しになっていませんか?

まず物理的な問題の方だが、これはすぐに分かっていただけるように、作業量が一定でも、処理する人数が多いほど作業時間は短くなる。逆に、何人かで行えばたいした時間を要しない作業であっても、一人でやっていると大変な時間がかかってしまう。そして、作業量が年間を通じて一定していればまだ問題はないのだが、ほとんどの仕事がそういうわけにはいかない。忙しい時とヒマな時があれば、ヒマな時に合わせた体制を採っておく方がリスクは少ない。「一人でやる」というのはその究極の姿であろうが、一人で溢れる仕事は自然と入ってくる量を抑えることになって、事業がいつまでも大きくならないという問題につながる。

しかし、それよりさらに深刻だと感じるのは、一人で何でもこなそうとするあまり、本当にやるべきことが後回しになってしまっていることだ。もちろん、日々の些末な仕事も無視することはできないが、そのようなルーティン作業に追われてしまうと、その人にしかできない本来の作業というか、「創造性の高い」作業が後回しになり勝ちになってしまう。こうなると、「一人では回らない」というより、一人しかいないので「回すことだけで手一杯になってしまう」という状態に陥ってしまうのだ。そして、その人にしかできない作業が滞ると、事業も顧客などの要望に合わせて「変化していく」ことが難しくなる。

本当は一人じゃない

物理的な問題とも微妙に関係するとも思うが、誰かと一緒に一つの目標に向けて進む楽しさは決して無視できない。この楽しさはどこから来るのだろうか。そもそも、来る日も来る日も一人で作業を続けるより、同志がいた方がモチベーションも維持し易いということはあるだろう。しかも先ほどの私のように、自分にしかできない創造性の高い作業を目指しても、自分一人の知識や発想には限界がある。自分だけのアイデアだけで永遠に進化し続けるのはどう考えても無理だと感じるのは、私一人ではないだろう。いろんな人と知恵を出し合うことによって、進化の幅は広がるのだ。

私は起業してからまだ2年半しか経っていないが、それでも事業の中味は漸次移り変わってきている。私は先ほども言ったように一人で仕事をしているのだが、事業の中味についてはいつも周囲の取引先やこれまでの仕事の中で知り合った人たちのアイデアなどから紹介されたり、ヒントを得て変えてきている。そうでなければ、もっと早い段階で事業は暗礁に乗り上げていただろう。だから、関係する人たちの話はできるだけ大切にしているつもりだ。「誰かを雇うなんてとても無理」と感じている個人事業主の方も、だから周りを見渡せば、本当は一人ではないことに気付くのではないかと思う。

一人の限界を超える

だから私は一人で事業をすることが一概に悪いことだとも思っていない。例えば、事業発足当初のように、大企業であっても本当に小さなスケールで活動しているときや、純粋に自分のアイデアを突き詰めたいときなど、一人で作業をする方がふさわしい場合もあるだろう。常に人と一緒に作業をすることを望んでいると、それ自体が目的化してしまって、望んだ形からずれることもある。複数人で事業を行っていても、それがうまく機能していないことが多々ある。そもそもそれを機能させようとする面倒が嫌で、一人で事業をすることになっていたりするものだ。

強調したいのは、責任の在りかをぼかしたり連帯感を高めるためだけに、仲間を募ってはならないということだ。必要なのは一人でいることの責任から逃れるのでなく、一人の限界を超えることにある。自立しながら協力し合うことで、相乗効果を高めなければならない。そのためなら、逆に従業員を雇うこと以外にも周囲の協力できる人たちを、言い方は悪いが利用すればいい。個人事業主であっても、何でも一人で事業を完結しないといけないということはない。周囲にいる企業や人たちを巻き込むことはできるはずだ。どんな風にして巻き込んでいくのかはそれこそ人それぞれ。それを考えるのも面白いのではないだろうか。