裸の王様

社長にとって情報は大切な武器であることは異論のないところだと思う。しかし、社内だけの情報で本当の情報は得られない。社長には都合の良い情報しか上がってこないことを知っておかねばならない。誰しも都合の悪い情報を上げて叱られたくはない。まして、その情報で自分の給料や身分、待遇に影響すると懸念される場合はなおさらである。だから都合の悪い情報になればなるほど、社長の耳には届きにくくなる。こうなると裸の王様そのものになる危険性を秘めているといえる。

それが分かっているので、ある大手の企業の社長は、報告は必ず都合の悪いことからするようにしているという。しかし、それも毎回都合の悪い報告があるとも限らず、また、どうしても社長の耳に入れたくない情報がある場合、そもそもコミュニケーション自体を取らなくなっているのではないかといった懸念も生じる。私のサラリーマン時代の経験を踏まえてお話しさせてもらえれば、社内で都合の悪い情報を上げさせるのは、余程の仕組みと社長の忍耐力が必要なことを覚悟すべきだと思っている。

社外からも独自の情報の入手を

社内だけでなく、社長が社外からも独自の入手方法を持っていると、その社内情報が真実かどうかも分かるし、社内の報告者に対しても的を得た質問をすることができる。先ず考えられるのが、顧客、取引先、業界や地域における付き合い、銀行関係、役所、それに求人案内に応募してくる学生など、工夫次第でいろいろなところから情報は得ることができる。要はそれをする気があるかどうかだ。地域の異業種交流会などももっと活用すればいいのにと思うのだが、案外利用している社長は少ないように感じる。

最近ではインターネットから情報を得ていると、したり顔でお話しされる社長もおられるが、そもそもインターネットにある情報がすべて正しいと考えるのが間違いだ。真実でないこともたくさんある。それに情報というのは、受けるばかりでは能がない。こちらからも情報を発信して、それに対する反応を得るという情報をやり取りをすることで、互いに情報の精度を高めることができるのだ。情報を受けるだけ、発信を発信するだけでは、そもそも情報としての価値を認めていないともいえる。

素直さと謙虚さ

松下幸之助さんは松下電器産業(現パナソニック)がグループ全体で10万人を超える社員を雇うようになっても、新入社員の話を聞いていたといわれる。社員が数十人程度の中小企業ならいざ知らず、それほどの大企業になってなお新入社員の話を聞くというのは、余程意識しないとできないことだろう。松下さんほどのお人なら、普通なら何か知りたいことがあった場合、そこらの副社長をつかまえて「あれはどうなっている」と聞けば、それこそ社内を挙げて調べ上げて情報が上げられたはずなのに。

そこからは、新入社員の話の中にも、人生はビジネスのヒントを得ることができると考えた松下さんの素直さ、謙虚さをも伺い知ることができる。松下さん自身、「素直さ」を大切にされておられたことは良く知られていることだが、ご自身もそれを実践しておられたということだろう。その新入社員との話の後でも、必ず「良い話を聞かせてもらって、有難う」と言っていたそうだ。松下さんのような神様にはなれなくても、それに近づく努力はしたいものだ。

顧客のせいにするな

自社製品やサービスに惚れこんでしまっている社長も多くいる。競合他社より自社が素晴らしいと凝り固まった考え方をしている。社長がそんな考えでいる限り、顧客からどんな話が持ち込まれても、クレームに当たる部分は届かない。頭からそんなことがあるわけがないと考えているからだ。しかし、仮に当初はクレームに至るものではなくても、時間とともにそれが不満となって現れることがある。それは言ってみれば、自社が自らクレームを育てたようなものだ。

満足していたら進化は止まる。満足している社長はそれ以上の事を求めない。一方、顧客の要求は果てることなく続く。常に進歩していないと顧客から見放される。だから社長は自分で見て感じることのできる真の情報を得られるように努力すべきだ。先日相談に見えられた社長は何故自社の商品が売れないのか分からないと嘆いていた。売れない理由を顧客のせいにする。売れないのは売れない理由がある。その理由を探し求めないで、顧客が悪い、宣伝が行き届いていないとするだけでは話にならない。