まくしたてる営業

休日に家にいると、ときどき飛び込みの営業マンが訪ねてくる。時間がない時は早々にお引き取りいただくのだが、たまたま時間に余裕があると、話しに付き合うことがある。つい先日も家のリフォームに関する営業マンが来て話し始めたのだが、これが極めて一方的な説明に終始し、こちらが説明途中にどんな疑問や感情を持っているか、お構いなしだった。10分ほど話し続けて、ようやく一通り話し終えたようで、初めて私と向き合うようになったが、それまでの滑らかな口調とは打って変わってしどろもどろの対応。これでは、どうしようもない。

始めての商談の際には、まず話し続けた10分間という時間はいくら何でも長すぎる。初期商談の目的を間違っている。まさか、その商談でいきなり契約を取ろうとまでは思っていないとは思うが、相手の興味にお構いなしでまくしたてるのはやはりどうかしている。この際、初期商談の目的を顧客に興味を持たせ、まとまった時間をもらって次の商談へつなげることに狙いを絞るべきだろう。そのためには、商品の特徴は数分程度で分かりやすく伝える工夫が必要だ。

目的を明確に

展示会でも同様だ。仕事柄、いろいろな展示会を見て回る機会があるが、出展ブースの中には「タコツボ」のように、一度入ったら契約するまで出られないのではないかと思わせられるような時がある。これでは気軽に興味を持って足を運ぶなんてことは、怖くてできない。何も出展の形のことだけを言っているのではない、例えば、自社のブースまで訪ねてくれた来場者と立ち話をする場合を想像してもらえればいい。そこで数十ページもある会社案内やカタログを渡して、最初から順番に説明をしていったところで、ほとんどの人は戸惑うばかりだ。

相手が狙った顧客と思うなら、その顧客が求める悩み、問題点に対して、自社の商品やサービスならそれを解決できることを、なるべく少ない情報量で伝え、「もっと詳しい話を聞きたい」と思わせるように努めなければならない。逆に、それをすることが初期商談の目的だろう。そうであるなら、出展の形やどんな質問にも答えられるような人選、用意する資料、営業トークなど変わってくるはずだ。最初から虎視眈々と獲物を狙うような視線を投げかけられていい気分になれるはずがない。

顧客の課題が先

初期商談においては、気を付けるべきは大体以下の点に集約されるように思う。
まずは顧客が何を課題として抱えているかを把握することだ。その課題を解決できるかもしれないということを認めてもらうことで、初めてこちらの言い分も聞いてもらえる。顧客が自らの課題に気付いていない場合でも、「○○だったら良いと思いませんか」といった形で課題を認識させて、ニーズを作り出すことができる。課題を提示できた後で、自社の商品やサービスを使えば、その課題を解決できるということを徐々に伝えていくのだ。

また、売り込まれるのが好きと思っている顧客はほとんどいないだろう。しかし、「役に立つものなら欲しい」とも思っているものだ。そこで、最初に顧客のためになるモノを無償で提供して、相手を喜ばせるとともに油断をさせることも効果的な手段だ。例えば、私の知り合いの税理士は「10分で分かる! 自社に応用できる節税のポイント」と題した小冊子を作成し、それを無償でプレゼントしている。この小冊子の末尾には、「今、個別相談を申し込むと経営分析シートを無料で作成」といった仕掛けも入っている。

情報の与え過ぎは消化不良に

もちろん他社との差別化も用意しておかなくてはならない。しかし、気を付けなればならないのは、初期商談のタイミングで情報を与え過ぎないようにしなければならないことだ。いきなり様々な営業ツールを渡したり、少しでも長く時間をかけて詳細な説明を行おうとすれば、商品やサービスに対する関心が高くなる前に顧客は困惑するばかりになってしまう。与えられた情報に対して消化不良になってしまうのだ。売り込みの気持ちを見透かされると、顧客に引かれてしまうだけだ。

どうも自信のない営業ほど多弁になる傾向があるように思う。自分の言いたいことだけを言ってそれで良しとする仕事なら、そんな仕事はロボットにしてもらえればいい。相手をことを考え、自分にできることがないか、今すぐはできなくても、工夫次第で先が開けるということはないか、それをすることで相手の成長も促されるのではないか、そんなことを考えながらするところに、醍醐味があるのではないか。そしてそれこそが営業の持つ創造性でもあるように思う。