規定にまでする必要ある?

私の知り合いで、つい最近「社内挨拶規定」というのを作った会社がある。そう、「お早うございます」とか「行ってまいります」とかいう、あの挨拶についての取り決めだ。これが新入社員の教育に最も役立っているとかで、知り合いの社長は満足そう。「何もそこまで規定にしなくても」とか「その前にやらなければならないことはたくさんある」とか、いろいろ意見はあるだろうが、実際に社内の雰囲気も良い感じに変わってきているので、まずはこれを規定に取り入れた社長の考えから聞いてみた。以下はその社長の言い分だ。

「『最近の若い者は挨拶ができない』と言われる。その若者に向かって、『挨拶をしろ』と言っても、それだけでなかなか挨拶ができるようにはならないものだ。それは挨拶は習慣であり、ほとんど意識などせずにしているものだからだ」。

「しかし、挨拶をしないことにはコミュニケーションは取れないし、仕事にもならない。会社として挨拶をしない社員には、何とかして挨拶ができるようになってもらわないと困る。通常だと年配の者は挨拶は若い者からするものだと考え、自分からは挨拶をしない者もいるが、これだといつまでたっても若者が挨拶をするようにはならない」。

すべての社員を対象に、挨拶は先にした者の勝ち

そこで、この社長は、若者に挨拶ができるようにさせるためには、「挨拶が当たり前」という環境を作るしかないと考えた。そして、それを社内に浸透させることを狙って規定化したという次第だ。「これは別に若者に気を遣っているというわけでもない。若者に挨拶をさせるにはこれしかないと思った」。この結果、全社員を巻き込んで、挨拶が当たり前の環境を作ることに成功したというわけだ。

規定に当たっては、気を使ったことが何点かあったようだ。その一つは、「すべての社員を対象にする」こと。挨拶に正社員だからとか、パートだからとかいった立場は関係はない。この規定の対象者は、会社で働くすべての社員となること。二つ目は、「挨拶は先にした者が勝ち」という風土を作ること。若い者から先にすべきだとか、部下から先にすべきだとかを言っていては、いつまでたっても若者が挨拶をする環境はできない。

挨拶にもレベル

三つ目は、「挨拶のレベルを決める」こと。挨拶といってもいろいろある。例えば、通りすがりの挨拶は歩きながらするのか、一端立ち止まって挨拶をするのかということでも違ってくる。しかし、「レベルが一定でないと当たり前の環境にならない」。このため、ここは必ず立ち止まることとしたが、わが社の挨拶とはどのような挨拶をいうのかをルール化することで、あいさつのレベルを一定にするようにした。

最後の四つ目は、「新たに入社した社員には一定期間『挨拶教育係』をつける」こと。新入社員であれ、中途入社であれ、挨拶に関するルールを徹底して教えることにした。

こうして第10条から成る社内挨拶規定が誕生した。中を見せてもらうと、朝一番(午前9時から10時まで)初めて挨拶する時の手順、①必ず立ち止まる、②相手に体の正面を向ける、③姿勢を正し、相手の目を見て、笑顔で挨拶した後、30度のお辞儀をする、④挨拶の言葉は「お早うございます」とする、といった具合だ。
このほかにも、外出する時、帰社した時、帰宅する時、上司から名前を呼ばれた時、と場面に分けて具体的に挨拶の仕方を定めている。

問題は本当に若者?

挨拶の仕方まで規定化したくらいだから、当然、電話対応やクレーム対応、来客対応についての規定は以前から備えている。社長は規定前と比べて社内の雰囲気は大いに良くなったというが、もちろんどの会社にでも当てはまるわけではないだろう。もともと、そうした規定を受け入れられやすい雰囲気があったのだとも思う。社長はネアカだし、皆から「さん」付けで呼ばれているくらいだから。

でも、もし「わが社でもどうかな」と思うところがあれば、一度試してみても面白いかもしれない。試してみて、効果がなければそれっきりだが損はない。案外挨拶を交わす一番の障害が若者でなく中高年にあったりすることが分かるかもしれない。それなら、次にはその対策を考えるまでだ。そうして少しずつ社内が明るくなっていけばいい。そして、もっともっと面白い社内規定が出てくることを期待している。