言いたいことと聞きたいことは別

皆さんが新入社員の頃、終業後に上司に付き合わされて、居酒屋で聞きたくもない話を延々と聞かされたといった経験はないだろうか。その話というのが上司の愚痴だったり、自分がどれだけ過去にすごいことをしてきたかといった自慢話だったり、あるいは新入社員に対する説教だったり・・・。私はできるだけ逃げていたが、毎回というわけにもいかず、いやいやでも付き合った時などは、もうそれだけで解放された時には疲れ果てていたりしたものだ。しかし、それでも決してその上司が嫌いなわけでもない。例えば、仕事上の注意点やこれまでに感動した話など、こちらから聞きたい話も実はあるものだ。

私は、下手な広告はこの上司の話と同じだと思っている。こちらは決してその商品や会社に関心がないわけでもないのに、配られるビラやパンフレットには自分にはまったくどうでもいいことしか書かれていない。よくあるのが、その商品やサービスがどれだけ優れているか、今が購入のチャンスであることなどが書かれているが、そもそも社会的にどんな価値があるのか、どんな人や会社がそれを利用しているのか、どんな動機でそれを利用して、効果はあったのか、なかったのかが知りたかったりする。要するに、自分がPRしたいことと、顧客の対象となる人や会社の知りたいことが違っているのだ。

PRにも工夫を

駅前やビジネス街などでビラを配る光景は珍しくないが、それを受け取って読む人が少ないのもこの当たりに原因があるのではないだろうか。新聞の折り込みチラシなども同様だ。毎朝配られる新聞に大量のチラシが入っているが、いちいちそれを手に取って読むことは、よほど気になるものが目に付いたという時以外、なかなかないのではないだろうか。SNSの利用が進み、以前と異なり、個人や何か事業を行っている会社が自ら情報を発信できる時代になっているが、大切なのは、それぞれ理想としている顧客が知りたい情報を発信できているかどうかだろう。

よく外回りをしていると、「SNSに取り組んではいるけれど・・・」といった話をよく聞く。手間ばかりかかって、効果が現れないことの諦めにも似た感じが伝わってくる。しかし、これまで配っていたチラシやビラに代わるものとして、「やらないよりまし」といった感じでSNSに取り組んでいても、決して効果を上げることはできないだろう。私は決してこれまでの媒体がことごとく無意味だと言っているのではない。問題はその利用の仕方だ。これほど情報が氾濫している中で、モノが不足していた時代と変わらない広告をし続けていることに、問題があると感じている。

強みと社会の動きを捉えることは必須

それなら、「どんな情報を載せれば良いのか」とよく聞かれるが、はっきり申し上げて、一律に「こうした情報なら絶対大丈夫です」とは言えない。それは業種によって、その個人や会社が何を強みとするかというところによって変わる。その根本である、自ら振り返って何が強みなのかをはっきりと認識できていないままに広告を出しても、新たにSNSを利用しても効果はない。自分で自分の強みを聞かれてもなかなか答え辛いように、それが案外難しいのだが、手っ取り早いのは顧客に聞いてみることだ。「何故うちの商品(サービス)を買っていただいたのでしょうか」と。

そして強みがある程度認識できれば、次に意識して欲しいのは、社会の動きだ。社会の動きといって漠然としているように思うなら、顧客の関心がどこにあるのかの調査だ。だから毎日の新聞やテレビで報じられるニュースには最低限目を通して欲しい。何故それがニュースとして取り上げられているのか、どんな風に取り上げられているのかを意識して追跡するだけでも、いざ自分が、自社が何をどのように訴えれば良いか考える際の参考になるだろう。そんな時間や手間はかけていられないと感じるなら、いっそ外部の業者にでも任せた方が良い。

個性、インパクト、興味

広告に必要なのは、「第1に個性、第2にインパクト、第3に興味」と言われる。強みを知り、社会の動きを知るのもその仕掛け作りのために必要なものだ。顧客は商品やサービスそのものに引き寄せられるのではない。それらが持つ「ストーリー」を買う。つまりコップ一つとってもその機能が必要だから買うのでなく、他にもいろいろあるコップの中でそのコップにしかない特徴、自分がそれを使ってどんな風に時間を過ごすのか、その時をイメージしながら、その経験を買おうとする時代だ。顧客の感情にも訴えながら、いかに共感を得られるかが勝負になる。

SNSの利用を始める個人の方には、「まず1000人のコアとなるファンを作ろう」と呼びかけている。もちろん簡単なことではないが、それでも目標数字を掲げることで現状からの対策を考えることができる。これからは、人気が集まらなければ商売にすることは難しい。1000人のコアファンが集まれば、仮に1人当たり毎月1000円をもらうことのできるビジネスであれば、それだけで毎月100万円の収入にすることができる。広告もそのやり方を検証しながら続けることで、徐々に効果を上げることができる。それぞれの広告内容を修正することに躊躇は不要だ。