一日100限定に押し寄せる客

「売上至上主義からの解放」を掲げているのは京都で一日100食を限定にランチだけの営業をしている店を展開している中村朱美氏だ。すでに全国で講演も多数行っておられ、それに加えて最近では「売上を減らそう」(ライツ社)という本の販売も好調なようなので、ご存じの方もたくさんおられるだろう。

今では京都市内に4店舗も店を出しておられるので、中には中村氏が経営する店で実際食事をされた方もおられるかもしれない。「前年比売上増ありきの経営の見直し」と聞けば、不景気になれば繰り返される「また利益重視経営の焼き直しか」と早合点しがちだが、お話を伺ったり、本を読めば、それとは全く違った経営を提唱しておられることがすぐ分かる。

毎日その店のランチを目がけて120~130人ほどのお客が来るのだが、それでもあえて「100食限定」を貫いておられるのだ。当然、毎日20~30人という客はあぶれるため、その日はもうその店でランチを取ることはできない。客は店に対して不満を感じるのではと思いきや、逆に、一層希少価値を感じることになり、中村氏曰く、「この次はもっと早く来店しよう」となるのだという。もっとも、店側でも営業時間前に整理券を配るなどの配慮をしていることは言うまでも無い。

フードロスがゼロ

この一日100食限定という制約によって生まれたメリットを、中村氏は大きく4つ挙げている。まず1つ目は、「フードロスがほぼゼロにできる」こと。当然だろう。100食限定にしているのに、それ以上に食材を買う必要はない。天候などの要因によっては一日100食を完売できない日があるかもしれないが、何も無ければ毎日120~130人の客が押し寄せる人気がある中で、そんな日は多くはないはずだ。そして、買い置きしなければならない食材がない(原則毎日食材を調達する)ため、普通、店の設備に不可欠な冷凍庫もいらない。このため初期投資の削減にもつながる。

メリットの2つ目は、「集客効果がアップする」こと。「限定」とすることで希少価値が上がる。実は店で提供するランチの原価率は、通常の店なら25~30%程度が常識だが、ここでは50%にもなるという。1000円のステーキ丼ならその原価は500円。大量購買による値引きで買っているので、普通の家庭の主婦がスーパーなどで買う牛肉なら700~800円はするところ。それが1000円出せば食べられるのだから、料理の手間などを考えると「いっそのこと食べに行こう」となる。とても合理的な価格設定になっている。原価率が高い分は宣伝広告費を一切かけなかったり、出店に際しては一等地を避けて出店して家賃を安くすることで補っている。

経営を簡単に

メリットの3つ目は、「経営を究極まで簡単にできる」こと。最初に「100食売れば絶対に黒字になる仕組み」さえ作っておきさえすればいいわけだ。中村氏の出す店は決して大きくない。店の広さは10坪で席数にして14席程度だ。100食売ろうとすれば7回転以上しなければならない計算になる。しかもランチ営業だけでだ。これは店を経営したことのある方なら分かるだろうが、大変なことだ。しかし、この店では11時に店を開けてから2時ごろまで満席が続くといったことが珍しくない。ネット予約の制度などは取り入れず、事前の整理券の配布にしても、必ず客と顔を合わせてやり取りすることでキャンセル防止にもつながっているのだという。

人材募集にかけるコストもゼロ

最後に挙げられるメリットは、「従業員たちが早く帰れる」ことだ。100食限定なのだから、毎日売り切ったらその後は明日の仕込みなどをしても、全員が6時までに完全退社できている。その結果、従業員には子育て中の女性やシングルマザー、障害者、外国人留学生、家族の介護をしている方、高齢者など多彩な生活を送る人たちが集まっている。店では年1回ハローワークを通した採用しか行っていない。だから人材募集にかけるコストもゼロなのだが、採用基準としてあるのはたった1つ。「今いるメンバーと合うかどうか」なのだという。

まだまだ中村氏の店の面白さはここで表すことはできないので、詳しくは前掲の本に譲りたいが、皆さんはこうした店舗経営をどう感じられるだろうか。飲食店だからできることでしかないのだろうか。飲食以外でも同じような経営が広がっていってもいいのではないかと思うのだがどうだろう。多分、「売上を追求しない経営のどこが面白いのか(やりがいがあるのか)」と問う方もおられよう。しかし、100食の半分、50食に限定して夫婦2人でやりくりできる店舗展開も今、全国で進められているという。少なくとも一つの経営の在り方として認知が広がりつつあるのは間違いない。