適正水準を下回る価格

関西経済連合会と大阪商工会議所は協力して4半期に一度「経営・経済動向調査」を実施している。マスコミで大きくは取り上げられなかったが、その最新の結果によると「中小企業の約4割は販売価格が適正水準を下回っている状況」だという。その理由は「国内他社との価格競争の激化」が46.7%で最も多く、2位は「親会社・取引先による値下げ・価格維持の要請」の36.7%と続く。関経連では価格競争激化の背景に、「技術やサービスなどで他社との差別化に苦労している企業が多い」ことがあると分析している。(この調査の対象は関経連と大商の会員1632社で行われ、その中には中小製造業も80社が回答している。)

価格是正の要請は仕事を失う恐れもあってどうしても慎重にならざるを得ない。しかし、原材料や人件費などが値上がりする中、コスト上昇分を納入価格に転嫁できなければ、じり貧なのは目に見えている。これまで長く続いてきたデフレの影響ですでに納入単価が下がり、利益率も大幅に下がっている状況の中でのことだけに、今どう動くかの判断は企業の将来に大きな影響を及ぼす。下請けや卸し、小売業では売り上げを上げるために値引き合戦をすることが当たり前になっている。しかし、そんな中でも値上げする勇気を持った企業は業種を問わずある。

交渉術にも工夫

A社はプレス機械の重要部品を手掛ける。定価の48%になっていた機械メーカー向けのある部品の納入価格を、2018年1月から70%に回復させた。この部品はA社の主力生産設備の稼働時間の半分を占めるが、売上高は同社全体の1割にも満たなかった。その理由は5%の値下げ要請を毎年受け入れていた結果だという。社長は16年冬に他社がまねのできない技術に加えて、同業他社も価格改定した事実を武器に、顧客に値上げを切り出した。交渉は約1年かかったそうだ。

B社は各種溶剤を生産し、塗料やインクメーカーに販売している。原価率が9割を占める製品が多いため、原料の相場に応じて頻繁に改訂する必要がある。しかし、値上げ交渉は原料上昇後のため、新価格が決まるまでは従来価格のままだ。このため価格を引き上げる際の従来価格との時間差の損が発生することになる。B社取締役は「これは自社で負担せざるを得ない。その代わり、損して得とれだ」と割り切っている。この「誠実さ」を次の仕事につなぐ。最近の値上交渉は約3か月遅れたものの、「ほぼ全額値上げでき、他社より早く決着した」と満足そう。

価格改定が難しければ時間短縮で

製造業だけではない。飲食業でも同じことだ。
C社は大阪府内で飲食業を3店舗営む。いずれもここ20年ほど同じ料金でコースを提供していて大繁盛しているそうだ。しかし、最後のコーヒーとデザートは別料金だ。特にこの店のデザートは人気で、ほぼすべての人が注文をするという。結局単価が上がる仕組みになっているが、他店で食べることを考えると安くて済み、コストパフォーマンスが良い仕組みになっている。

社会保険労務士業を営むDさんはかねてより顧問料の引き上げに悩んでいた。士業は他の方とのサービスの違いを出しづらく、逆に、「ついでにこれもやっといて」と言われれば断ることもしづらい雰囲気にある。だからDさんがしたことは、仕事にかかる時間を短くすることだった。サービスの内容はこれまで通り。顧問先の企業に行く前に必ず次の訪問での課題を整理したファックスを送り、訪問後には決まったことや次の訪問時に向けた宿題などをまとめ、仕事の効率を図るようにした。その結果、時間当たりの単価がアップしたのは言うまでもなく、今までついでに頼まれていた仕事は追加料金を請求しやすくなったという。

将来を見据える時間を持って正面から立ち向かう勇気を

中小企業が売上を上げるために値下げをしていては将来性はない。かといって、顧客から単純に値上したのだと見透かされるようでは、値上げは成功しない。顧客が納得する以上にコストパフォーマンスがあって、お得感がなければだめなのだ。「分かってはいるけどなかなか実行するのが難しい」と言われるだろうが、上記の例はいずれも私が知る限り、少し前まで同じような愚痴を言っていた人たちだった。その人たちがある時変わった。それは、「目先の仕事から離れて将来を見据える冷静な時間を持つ」ことから始まった。人によれば、ほんの半日で腹をくくった人もいる。

今後、どんな業界にいてもAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など先端技術が起こす変化を避けることはできない。そのためにも、利益を増やし、設備投資できる体制を今から構築しておかねばならない。誰でも分かることだが、そのことに正面から目を向けて立ち向かえる勇気を持てるかどうかが大切だ。歴史の長い企業や過去に成功体験のある経営者たちはこれまでのやり方を踏襲するばかりで、変化を起こすことにチャレンジする勇気を持てないことが多い。しかし、昔を振り返って成功できる時代ではもうない。そんな当たり前のことが行動に移せない原因なのだとすれば何だかやるせない。