請求書も発行していないの?

ある税理士の先生と話をしていて、まだまだ世間には驚くようなことがあるのだなあと変に感心したことがあった。それはいよいよ経営に行き詰ったということで相談に訪れたベンチャー企業の話なのだが、その経営者は根っからの技術者で、せっかくの売り上げに対しても請求書さえ発行していなかったという。

請求書を発行していないのだから収入も無いわけなので、当然のことながら経営は行き詰る。「良いものを作って売っていれば会社は回っていくと信じていました」と後にその経営者は話していたそうだ。いくら技術者で営業は苦手といっても、さすがにそこまでいくことも珍しいとは思うが、嘘のような本当の話だ。

売掛金を扱う前に

請求書を発行するということは、そこに債権債務の関係が成立したことの証拠になり、販売後の料金を回収する際の根拠になる。それがないと回収の仕様もないが、よくあるのは請求書を発行していても、相手の支払いが遅れたり、回収できないケースだ。特に売掛金を用いた取引を行う場合の注意点を税理士の先生に伺った。

まずは、取引先の信用調査を行うことだ。営業担当者がいる場合、その担当者の情報に加えて、専門の信用調査機関を使う。すでに取引を始めている相手に対しても定期的に調査を行えばなお良い。そして取引を始める際は、支払い期限や支払い方法などを事前に決め、契約書で定める。

請求の手続きは早めにするのが心得

請求の遅延はそのまま売掛金の回収の遅れにつながるため、請求手続きは迅速に行うのが良い。支払い期限に近くなって行うと、相手に対しても失礼になる。

そして万一、支払い期限までに振り込みのない取引先に対しては、例えば以降の取引について、前回の振り込みと引き換えに次回の納品を行うといった対策を早めに打つことだ。
支払いが滞っている取引先には、相手の商品を購入することで代金の相殺をしたり、代物弁済として代金の一部を代替品で受け取るなどの処置を取ることも考えられる。そして、相手に支払い意思のない場合は、通知書や内容証明郵便による警告、弁護士など専門家への取り立て委任などの手続きに移らなければならない。

マニュアル化の大切さ

こうした回収の手順は、自社で対応できない場合の専門家に委任するケースも含めて、社内でマニュアル化しておくことが必要だ。例えば、支払い期限を何日過ぎれば督促状を送付し、それでも応じない場合は、相手の立ち合いの下で商品の引き上げを行うなどの社内体制を確認し、自社で代金回収をする体制を作っておくことだ。

詳しくは専門家に譲るが、債券の回収で四苦八苦されたご経験のある方のお話をうかがうと、そのことで本が1冊書くことができるのではと思うほど大変そうだ。面白いといっては語弊があるが、それほど皆さんご苦労されておられるということだろうと思っている。せめてそうなる前の準備だけは整えておくに越したことはない。